『ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密』90点(100点満点中)

夏休み最高のイベントになるほど面白い娯楽映画

アイマックスシアターなどの、大型スクリーンの劇場で、3D(立体)上映される 47分間のドキュメンタリー映画。巨大スクリーン上映のため、日本語吹き替え版のみの上映となる。

この手の3D映画というのは、日本よりアメリカで一般的で、あちらのシネコン(映画複合施設)には、だいたい1つはこうした大型スクリーンの上映館が併設されている事が多い。

さて、本作は、ご存知『タイタニック』のジェームズ・キャメロン監督が、本物の沈没しているタイタニック号を、小型潜水艇などを駆使して撮影した、ドキュメンタリー映画である。

この映画は、入口で渡される専用のメガネをかけて鑑賞する。人間の視点と連動して焦点距離の変わるカメラのおかげで、通常なら20分くらいで目が疲れてしまう3D映画なのに、47分間という長時間の作品を作る事に成功した。各種機材は、監督が『タイタニック』で儲けた私財をなげうって、SONYと共同で開発した。

そこまでしただけあって、『ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密』は、渾身の仕上がりである。『ボウリング・フォー・コロンバイン』『デブラ・ウィンガーを探して』『WATARIDORI』など、娯楽性の強い作品が多い今年のドキュメンタリー映画の中で、個人的には、本作こそダントツにオススメの作品である。

深海のタイタニック号を撮影するにあたっては、さすがは完璧主義のキャメロン監督、照明と撮影を別の潜水艇に役割分担させるという、画期的な方法で行った。このため、よくある海中ドキュメンタリーとは、明らかに一線を画す、深みのある映像作りに成功した。初めて観客の前に、深海に眠るタイタニック号の姿が現れる瞬間は、あまりの神々しさに涙を流す人もいる事だろう。息を呑むとは、まさにこの瞬間のためにあるような言葉である。

それにしても、この監督は実に見せ方が上手い。同じ素材を与えても、ここまで娯楽性の高い、見ていてワクワクするような映画を作る監督はそうそういまい。立体映像という特色を最大限に利用して、時には遊び心たっぷりに、時には背筋が震えるような感動的な演出で私たちを楽しませてくれる。このサービス精神には、まったく頭が下がる。これで1800円なら、相当リーズナブルと言えるだろう。

深海のタイタニック号を探検する際も、ただその映像だけを見せるような退屈な事はしない。CGを駆使した、沈没前の映像をふんだんに挿入し、現在の映像にフェードアウトさせるような、とてもわかりやすい構成にしてくれている。こちらの想像力の及ばない所を、親切に補完してくれるのでありがたい。このCGは、映画『タイタニック』のものを使っているのかと一瞬思ったが、後で聞いたところ、製作会社が変更したのでまったく別のものを一から作ったのだと言う。

さらにこの映画、ドキュメンタリーのくせに、妙にストーリー性が高いのである。クライマックスには、ドキュメンタリーとは思えないような見せ場があり、感動的なラストが待っている。

本作は、レオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレットの『タイタニック』のファンならもちろん、そうでない方でも相当楽しめる映画である。なるべく、『タイタニック』を事前に見ておいたほうがいいと思うが、とくにつながりがあるわけでは無い。

最後に、1つアドバイスしておこう。本作は、専用のメガネを装着するので、コンタクトレンズを持っている方は、なるべくコンタクトで出かけたほうがいい。メガネの上からでも装着出来るが、少々窮屈だから。



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