『沙羅双樹』30点(100点満点中)

バサラ祭のシーンはインパクト抜群だが……

『萌の朱雀』(97年)で、カンヌ映画祭カメラドール(新人監督賞)を史上最年少で受賞した河瀬直美監督が、出身地の奈良を舞台に描く人間ドラマ。

ドキュメントタッチの映像で、平凡な人々を暮らしを淡々と追う。手持ちカメラの長まわしが、その基本である。特に、最初のシークエンスは、しつこいくらいにずーっとカメラが人物を追いつづけるので、非常に目を引く。

しかし、この長まわしってやつは、少々芸が無さすぎやしないか。ポイントで効果的に使うというならともかく、あまりにそればかりでは、客は疲れるし飽きもくる。

また、まるで監督がカメラマンに、「絶対止まっちゃダメ。とにかくなんでもいいから動きつづけて。もっとカメラを振って!」 とでも指示しているんじゃないかと思うほど、カメラがぶれる。話に没頭できないほどなのだから、これはもう少し気を配ってほしい。

セリフも、ボソボソと何を言ってるのか聞こえにくい。私の見積もりでは、およそ30%は聞き取り不可である。これでは公安警察外事課特製の、音声解読装置が必要だ。。

監督の愛する奈良の町の魅力を、ナマのままフィルムに収めようという心意気は感じるが、奈良出身ではない私には、あまり伝わってこなかったというのも正直な所だ。

しかしながら、バサラ踊りの場面だけは、鑑賞後1ヵ月以上経った今でも、鮮明に記憶に残る。あの妙なテンポの音楽と女の子の踊りが、脳内リフレイン状態なのである。そして、その場面をもう一度見たいがために、他のシーンを我慢してでも、また見に行こうかしらなどと考える自分がいたりする。



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