『さよなら、クロ 世界一幸せな犬の物語』40点(100点満点中)

あまり細かい事を気にしない、おおらかな動物映画好きの人なら

1961年から12年間、長野県の松本深志高校に実在した、元野良犬のクロの感動物語。

言うまでもないが、動物映画好き向けの映画である。そういう人なら泣けるかも知れないが、それほどではない普通の観客にとっては、イマイチという印象かもしれない。

というのも、『さよなら、クロ』は、少々センスがよろしくないのである。具体的に言うなら、オヤジくさいのである。

たとえば、同じ"泣き"のシーンでも、先週公開のオススメ感動作品『夏休みのレモネード』という映画の場合は、画面は、なんでもない白い空を写しているだけなのに、なぜか涙が溢れてくるといった泣かせ方をしているのに対して、『さよなら、クロ』は、いかにもここでお泣きください的な演出である。バカ正直といおうか、どうにも不器用で、スマートじゃないのである。

用務員役のおじさんの演技とか、冒頭に流れる歌とか、なかなか光る部分もある映画なのだが、全体的に会話の内容がいかにも脚本くさくて、自然じゃない点も、マイナス部分だろう。

元ネタになった実在のクロの物語自体は、非常に興味深い良質な題材だと思う。だから、もうちょいやりようによっては、ドラマチックに出来たはずである。なのにこの映画版は、いかにもありがちなエピソードを、いくつも並べただけといった印象で、ひねりがない。

それに、109分の映画だというのに妙に長く感じる。いろいろな話をつめこみすぎな印象のわりに、濃度が薄い感じだ。やはり、万人を劇場に呼ぶほどのパワーは、残念ながら無いといったところだろう。



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