『アバウト・シュミット』80点(100点満点中)

最後の十秒にこの映画の魅力の全てがある!

アカデミー賞俳優ジャック・ニコルソン主演の感動ドラマ。

主人公は、定年退職を迎えた初老の男で、半生を振りかえり、自分の人生は平凡だが、そこそこ幸せだったと思いこんでいる。

ところが、突然妻が死亡し、しかも遺品を整理していたら自分の親友と浮気していやがったことが分かって、その思いは吹っ飛ぶ。

さらに、仕事ひとすじだったために、ろくに家事も出来ない彼の生活は荒れ放題。趣味も無いので、仕事を辞めたら全くやる事がおもいつかない。

つまり、人生の終盤で、メッキが一気に剥げ落ちた、あわれな男なのである。これは、特に日本人のオジサンたちにとっては、他人事ではあるまい。熟年離婚が社会問題になっている今、こうした主人公の気持ちがわかる人は、相当な数いるはずだ。

J・ニコルソンの演技が見事である。彼は、ラスト十秒のある演技のために、そこまでの120分以上を、意図したとしか思えない押さえた演技で引っ張るのだ。じつにとんでもない役者である。おそらく今年のアカデミー会員は、この十秒間の演技をみて、彼を主演男優賞にノミネートしたに違いない。

コレには私もやられた。これ以上はネタバレなのでいえないが、皆さんにも、ぜひこの極上のラストを、存分に味わって欲しい。誰からも必要とされていない事を知った、平凡で悲しい男に訪れる、意外なこのエンディングを、私はとても気に入っている。

問題は、ニコルソンの顔はあくがありすぎて、どうみても『平凡な男』には見えないという点だが、それはさすがにいかんともしがたい。顔を変えるわけにはいかんので、これには目をつぶろう。

やはり彼の、あのラストの演技力を考えたら、そうした多少のマイナス点を無視してでも、彼を起用したいという監督の心理はよくわかる。そして、おそらくそれは間違っていない。

なんにせよ、弱者に優しい視点を持つこの映画は、感動ドラマを好む方には、今週1番のオススメ作品といっておく。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.