『サラマンダー』40点(100点満点中)

突っ込み所満載の怪物パニック映画

CGをふんだんに使った、ハリウッド製怪物パニック映画。

サラマンダーという、何百万年かに1度冬眠から覚め、あるもの全てを灰にして食べ尽くしては、また冬眠に入るという、はた迷惑な巨大トリに、人類が生き残りを賭けて戦いを挑むという話である。

まず、火を吹くドラゴンの最初の1頭が確認されると、世間は大騒ぎする。もちろん、ハリウッド御用達最強アメリカ軍が登場して彼らに戦いを挑むのかな、と思っていたら違って、次のシーンでは早くも荒れ果てた地上の様子に場面は変わる。

そこではすでに、人類軍は大敗を喫し、核兵器も通用せず、残った人類はあとわずか、滅亡寸前という設定だ。そして、本編はそこから始まるのである。

私としては、『インディペンデンスデイ』みたいに、ホワイトハウスがあたふたするところや、ペンタゴンが緊迫感のなか動き出す、といったリアルシミュレーションモノを見たかったのだが、残念ながらそのへんはすぱっと省略。ようはこの監督、『マッドマックス』みたいな雰囲気の映画を作りたかったようである。

CGで出来たドラゴンのリアルな動きは本当に凄いし、迫力満点だ。なんでも、うろこが一つ一つ別々の動きをするというのを表現したらしい。CG技師の残業代が気になるが、まあ、確かによく出来ているのでその成果はあったといえる。

ただ問題は、人類が核兵器でも倒せなかった、その無敵のサラマンダーが、弓矢で倒せちゃうという部分である。

これはつまり、自衛隊も北朝鮮のテポドン対策に、これからは弓矢隊を結成すべきという新軍事理論の提案といえる。イージス艦には、対空ミサイルの変わりに弓矢隊。できれば矢尻に毒つき。これ最強。

あと素朴な疑問としては、サラマンダーは人間を食べて生きているようだから、人間側が、出かけるときは爆弾を腹に巻くという抵抗策を取れば、ヒト一人の犠牲でサラマンダー一匹を倒せる計算になり、数百匹しかいないサラマンダーなど、あっという間に殲滅できるはずなのだが、この映画の人類はそういう知恵は思い付かなかったらしい。

少なくとも、イス●ム過激派あたりは、この手の攻撃はすぐ思い付くと思うのであるが。いや、もしかすると、そんなストーリーではテロリストが映画で英雄になってしまうので、さすがに作れなかったのか。

とりあえず、映画『サラマンダー』は、上記のようなアラだらけの欠陥ストーリーを持つ映画だから、あまり細かい所を見てはいけない。よく出来たCGドラゴンと、マッドマックス的世界を、ノー天気に楽しむべき映画なのである。



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