『夢 追いかけて』20点(100点満点中)

素材はいいが、調理が下手

日本でただ一人の全盲の熱血教師、河合純一の愛と勇気を描く感動ドラマ。本人が本人役で主演するという、珍しい作品。

だが、本人が出演する意味は全く無いと私は思う。水泳シーンだってないし、プロの役者に囲まれて、彼だけ浮きまくりだ。同級生であるはずの周りの役者たちと年齢も合っていないし、どうみてもその演技力は素人以下。これじゃ、単に障害者を見世物にしただけと言われても仕方が無い。私には、これを決めた人の演出意図が全く理解できない。

少年時代は別の役者が演じているのでいいのだが、本人が出てくる後半からはもう、どうしようもないとしかいえない。

低予算の悲しさか、太鼓シーンも、水泳シーンも、見せ場に迫力が無い。セリフにもリアルさが欠け、うそ臭い。だいたい、今時カエルの歌を合唱しながら仲良く登校する男子中学生なんているか。よくもこういう変なシーンに、スタッフの誰も異議を唱えないものだと、私は不思議でならない。

脚本家のセンスが上の通りだから、観客は各所で気恥ずかしい思いをする。なにせ、パラリンピックの応援に、猟師仲間が大漁旗をもってやってくるといった、どうみても寒いだけのシーンを平気で書いてしまうのだから。

そんなわけでこの映画は、素材はいいのだが、全く生かしきれていない。だいたい、パラリンピックで金メダルを取ったのなら、それをメインの柱として物語を作るべきだ。なのに、せっかくのそのシーンは、あっさり流されるだけという理解しがたさ。

そこを最大の見せ場にせずどうするのだ。河合氏の知り合いと、スタッフの知り合い以外がこれを観て本当に楽しめると思うのか、私は製作者に聞いてみたい。



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