『きれいな涙 SPIRIT』85点(100点満点中)

真の意味で大人と子供の両方が楽しめる傑作

『きれいな涙 SPIRIT』は王道のストーリーを持つアニメーション作品で、いかにもアメリカらしい一本。ディズニーの『トレジャープラネット』に対抗するドリームワークスの作品だが、どちらも実によく出来ている。フルアニメーションらしいエレガントな動きとCGの融合は、違和感を感じる部分がだいぶ減り、そろそろ完成の域に達したという感じがする。

カメラワークは、決してアニメっぽくはない、実写のハリウッド映画を見ているようなダイナミックなもので、照明(光源)の凝った様子も合わせて、高く評価したいところ。音楽と映像がシンクロした総合的な演出法は、映画としての完成度の高さを感じさせる。

この作品の面白いところは、主人公の馬を擬人化していないという点。馬は「ヒヒーン」としかいわないし、人間みたいな表情もしない。それなのに、その心情を雄弁に語っている。

馬が軍隊から逃げるだけという単純なストーリーなのに、大爆発あり激流ありの大スペクタクル。しかもそうした見せ場の出来がすこぶるいい。こんな地味なストーリーが、ド派手な娯楽大作になってしまうあたり、さすがはアメリカ。

主人公の馬は、決して自分を見失わない、野生的で純粋な心を持った存在。彼の行動の数々を通して我々は、自由やプライド、戦うべき強さを持つべきだと伝えられる。

子供向けに振っていない、真の意味で大人と子供、両方が楽しめる傑作。ゴールデンウィークに子供と行くなら(いや、大人だけでも)、『きれいな涙 SPIRIT』は、真っ先に薦めたいアニメーションである。



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