『母と娘』60点(100点満点中)
独特の味がある、フィリピン製感動ドラマ
『anak』という、日本でも加藤登紀子がカバーしたフィリピンの名曲を原作とした映画。世界中に出稼ぎに行く、フィリピン人メイドを描く。
日本では、非常に珍しいフィリピン映画だが、実はフィリピンは映画大国で、自国で製作される映画の数も多く、国内での興行もハリウッド作品に負けないくらい好調という、世界的にも珍しい国なのである。
国民は皆英語をしゃべれるというのに、ハリウッド映画だけでなく、あえて自国語で作られた国産映画のほうを国民が見に行くというのは、とても素晴らしい事だと思う。
『母と娘』の主演女優は、本職は市長さんという珍しい経歴だが、フィリピンでは人気女優でもあるそうだ。
本作品で描かれるフィリピン人メイドの物語は、たとえフィリピン人で無くとも、子育てで、何かを犠牲にした経験のある人ならば、涙無くしては見れないであろう。
私はこれを一般試写で見たのだが、観客は中年女性ばかりで、ラストの感動シーンではみな涙していたし、終映後は拍手が巻き起こるという、日本では珍しい現象が起きた。主催者である市民団体の関係者が多く混じっていたのかな、という感じもしないでもないが、確かに作品自体は感動的で、なかなか楽しめた。ラストに流れる「ANAK」のメロディも非常に印象的だ。
それにしても、メイドを虐待する場面はひどい。この映画をぜひアメリカやイタリアなどで公開して、問題提起すべきだ。
ストーリーに波乱は無く、予想通りに展開するが、120分は少々長いので、できればもう少し短くして欲しいと思う。
前半は、オバさん3人組がとにかくひっきりなしにでかくて甲高い声で喋り捲り、うるさくてしょうがなかったが、これも東南アジア的な味だなぁという感じはした。
『母と娘』は、本国で大ヒットした事でわかる通り、万人(とくに弱者たる庶民)向けの、素朴な感動作品である。フィリピンの珍しい映像や文化を知ることが出来るのも、なかなか楽しかった。事情通によれば、フィリピン映画で日本人が楽しめるような作品は少なく、この映画は稀有なる例だということだ。だとすれば余計に見逃せない。