『2009年の総括・後編』

はじめに

前回総括・前半をアップしたら、たくさんの励ましのメールをいただいた。執筆の都合で、この後半をアップロードする前に通常の更新を間にはさむ形になってしまったが、「後半に続くといいながら何をやってるんだ」といったメッセージまで頂戴する始末である。もう普通の更新などやめて、毎週総括だけやっていたほうがいいのだろうかと、一晩徹夜で悩むはめになった。

2009年気合の入った映画

ウォッチメン ブルーレイ スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]
▲ぱっと見つまらないが、奥深い「たとえ」に満ちた一本

ダイアナの選択 [DVD]
▲このオチにはびっくりした

おっぱいバレー [DVD]
▲題名はふざけているが泣ける映画

私の個人的印象によると、2009年は少々不作の年だった気がする。映画雑誌などのランキングでダントツ一位、専門家たちが文句なしに推す『グラン・トリノ』にしても、確かに優れてはいるが1年を代表するほどの強烈な良さがあったかどうか。

個人的には『ウォッチメン』の方が印象に残った。こういう映画は世の中が安定しているときに見ても、得られるものは少ない。現代のような波乱含みな時代だからこそ深みを感じられ、様々な示唆を与えてくれる。2009年らしさ、という意味ではトップに来ると私は考える。数年後ではなく、今見るべき映画ならば、やはりこれだろう。

時代性という意味では『スラムドッグ$ミリオネア』も負けていない。さすがはアカデミー賞受賞作というべき、タイムリーなテーマを持つ一本といえる。ただし、両者ともいま(2010年1月)が賞味期限ぎりぎりという感じ。存分に楽しみたいならお早めに。

同様に『2012』も、いかにも2009年!な作品で、映画館で見ておいてほしい作品だ。荒唐無稽な娯楽作の中にこそ、いま知っておくべき真実が隠されている。そんな視点でぜひ。

時代性関係なくいい映画としては、『ダイアナの選択』『スター・トレック』『96時間』あたり。こうした作品たちは、いつ見ても楽しめる普遍的な面白さを持っている。

当サイトのボリュームゾーンである30代男性にとっては、『おっぱいバレー』『セブンティーン・アゲイン』の日米傑作コメディが必見。とくに『おっぱいバレー』は、つまらないと評した人には会ったことがない。対象年齢の範疇の人ならば、かなり期待できる。

『アマルフィ 女神の報酬』『縞模様のパジャマの少年』あたりは賛否両論だが、私としてはオススメしたいところ。とくに『アマルフィ 女神の報酬』は、細部は荒削りだが意欲的な企画だった。2010年はフジテレビも手堅いテレビドラマの映画化志向に戻ってしまうようだが、それがこうしたチャレンジが思ったほどウケなかった結果だとしたら、これほど残念な話はない。本作を、観光地映画だとかスター頼りの安直作品などとバカにする空気が、邦画をどんどんダメにしているような気がしてならない。


2009年ダメダメな映画

GOEMON [DVD]
▲普通に面白いのだから始末におえない

食客 (しょっきゃく) [DVD]
▲一人気を吐き、不振の09年ダメ界を救った

MW‐ムウ‐ [DVD]
▲まろやかな新解釈

2009年が不作だったと感じるのは、ひとえにダメ界の不振によるものである。

とくに、誰もが期待した『DRAGONBALL EVOLUTION』がごく普通に見られるアクションものだった衝撃は計り知れない。ダメ映画ファンに与えたガッカリ感は言葉では言い表せないほどである。

同様の批判は『GOEMON』にもいえる。『CASSHERN/キャシャーン』であれほどのぶっ飛びぶりを見せた監督が、ちんまりとまとまってしまった事は、多大なる損失といえるかもしれない。次回作でどこまで無茶ができるか、ここは期待がかかるところだ。なにしろ最近の日本映画界は、悪い意味で器用になってきており、紀里谷監督のようなホームラン狙いの魅力的な大振りスラッガーはほとんど活躍の場がない。さびしい限りである。

そんな中、奮闘をみせたのはやはり韓国映画界。中でも『食客』のトンデモぶりは、不振の日本ダメ界をあざ笑うかのようなインパクトを観客に与えた。この国には、到底日本では公開できないすごい内容の映画がいくつもあると言われており、勇気ある配給会社の登場が待ち望まれている。私も時折「アレを買ってみては」と水を向けるが、ことごとくその反応は鈍い。

一方、邦画で『食客』に匹敵するのは『MW-ムウ-』くらいか。原作の面白さとの落差は特筆すべきものがあり、ホームパーティなどで見るにもぴったりである。

基本的に映画はいいものを見たほうがいいと思うが、真剣に大金を投じて作りながら、どこか頓珍漢な仕上がりになってしまった珍品を味わうのもまた乙なものである。むしろ、そちらにこそ人間関係のしがらみというか、味のようなものが見え隠れして興味深くもある。皆さんも一度、おおらかな心で楽しんでみてはどうだろうか。


いただいたメールへのお返事

「気合の入った映画」続き

スラムドッグ$ミリオネア [DVD]
▲ハッピーエンドに見えなくもないが…

スター・トレック スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]
▲BD版は音響と映像が無茶苦茶凄いそうです

96時間 [Blu-ray]
▲いくらなんでも強すぎる父

セブンティーン・アゲイン 特別版 [DVD]
▲お父さんのバイアグラ的願望をかなえる良心的作品

アマルフィ 女神の報酬 スタンダード・エディション [DVD]
▲フジ内で事業仕分けの対象になっていないか不安

縞模様のパジャマの少年 [DVD]
▲本年度びっくり結末大賞受賞作品

さて、2009年もたくさんのメールをいただきながらほとんど返信できなかったので、この場を借りてご紹介したいと思います。なお文面には、似た内容のものを一通にまとめたり文章の表現を変えるなど、多少手を入れてあります。

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「SAW」シリーズの記事を楽しみにしていたのに、なぜ突然5作目で途絶えたのでしょうか。それに最近、掲載される映画とされない映画の判断基準がいまいち分かりません。また、人気作「○○」を掲載しないのは、何か特別な理由があるのでしょうか?

同じご意見を複数いただいた事もあり、「SAW」6作目は掲載しました。サイトへの掲載基準などは厳密に設けておらず、読者のニーズを見極めながら選んでいます。掲載していない作品は、単にスケジュールの都合で公開日までに見られなかったか、執筆が間に合わなかったものがほとんどでしょう。

ボディビルなんて、あんなに身体を膨らまして何の効果があるのですか。バランスが悪いと思うんですが。

私がボディビルファンと知ってのご質問ですね。確かにプロになるわけでもないのにデカくしても、自己満足以外にたいした効果はないかもしれないです。ただ、薬物を使うような事をしなければ、健康にはいいです。あらゆる病気を防止してくれます。ぜひやりましょう。

私は左翼なので前田さんと考えは違うと思いますが、応援しています。

恐縮です。個人的には右も左も両方大事、どちらの要素も内包するのが普通だろうと思っています。年下相手のときはMで、年上相手だとSになるようなものです。無理やりカテゴライズして排他的になる事ほどおろかな話はありません。狭いニッポン、ケンカせず仲良く生きたいものです。

吹き替えと字幕、どっちが好きですか? 私はジャッキー映画の字幕は認めません。映画館にも行けないので困っています。

私は仕事でDVDを見るときは吹き替え音声で、字幕も同時に表示させて見る事が多いです。純粋に楽しみで見るときは作品によるでしょう。それにしても、映画館で吹き替えをやってないというのは悩ましいですね。さて、全国の映画館関係者の皆さん。ここで大きなビジネスチャンスがやってきましたよ。早速「吹き替えで見たい映画」キャンペーンを組んでみてはいかがでしょう?

早起きはまだ続けていますか?

「ベンジャミン・バトン」の批評文への反応かと思います。早起きは毎日ではないですが続けています。遅くとも6時には起きていたいですね。知り合いの編集者は3時半に起きるといっていました。その時間に寝る人のほうが多い業界だろうに、すごい話です。その方、顔色は年齢の割りにかなり良いようです。

最近点数が甘いよ。もっと辛口にしろ。

インドカレーも辛口がうまいですし、今後は心がけます。

古い映画の批評サイトも作れ。無料でな。

現状ではさすがに時間的余裕が……。いつかやるメモに追加しておきます。

「あの日、欲望の大地で」のチラシや他の批評は確かにひどかった! 先にみてたら面白くなかったと思う。どうもありがとう。

本来、他人の書いたものにケチをつけるのは心苦しいのですが、わかっていただいて嬉しいです。

モバイル版で、AUだとサイト内検索ができません。

いまのところ仕様……というか、既知の不具合ってやつです。直したいと思っています。

『サマーウォーズ』を彼氏と一緒に見て、彼の前でないちゃいました♪ 帰り、彼氏と繋いだ手は、いつもよりギュッとしてました。カップルでいくといいと思います!

かわいい彼女で彼氏がうらやましいです。思わず悔し涙が出てきました。

この他、多数のお便りをいただき感謝いたします。また、直接お返事できなかった方にはこの場でお詫びいたします。すべて参考にしておりますので、引き続きご意見ご感想、お叱りのメール等々、お気軽にお送りくだされば幸いです。それでは、本年もよろしくお願い申し上げます。




連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
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