『FRANG/ファラン』55点(100点満点中)
FARANG 22年フランス 100分 2024/05/31公開 クロックワークス R18+ 監督:ザヴィエ・ジャン 出演:ナシム・リエス ロラン・ヌネ オリヴィエ・グルメ
≪一点突破型アクション映画だが物量が物足りない≫
バイオレンス描写を得意とするフランスのザヴィエ・ジャン監督による『FRANG/ファラン』は、本物格闘家俳優を主演に据えたアクション映画。しかし、そのウリを生かすには肝心のアクションシーンの量がやや物足りない。
アルジェリア系フランス人のサム(ナシム・リエス)は、仮釈放中、昔の犯罪仲間から逃げる途中で偶発的に相手を殺してしまい、逃げるようにタイへとたどりつく。5年後、現地で知り合った妻ミア(ナシム・リエス)、娘ダラと暮らす彼は、家族を底辺の暮らしから救うため、フランス人の男ナロンから危ない仕事を引き受ける。だがその決断のせいで最愛の妻を失ったサムは、復讐の鬼と化し犯人たちを追うのだった。
ナシム・リエスはフランスでキックボクシングのチャンピオンになったこともある本物のもと格闘家で、本作でもムエタイ選手の相手役を前にリアリティ満点の格闘シーンを見せてくれる。パンチは寸止めせずに本当にぶん殴り、あげく本人が足首を骨折する大けがまでして撮影に挑んだという。
こうしたガチモン映画は、初期トニー・ジャーの作品などを筆頭に多々あるが、『FRANG/ファラン』はドラマ重視のいかにもなフランス映画であり、アクション目当てに見に行く人には少々物足りない。
それでもこの映画が見る価値があるのは、終盤のエレベータ内の格闘シーンが見事な出来栄えだからである。
詳しくは見てほしいが、このシークエンスを撮るために監督は壁や天井が外せるエレベータのセットを建築。プリビジュアライゼーションという手法を使って綿密なアクション振り付けを行い、迫力の場面を作り上げた。
プリビジュアライゼーションとは簡単に言うと、事前にスタントマンなどを使った完全な振り付けを、カメラまで入れて行っておき、本番ではそれを再現するだけの状態にしておくこと。事前にあらゆる試行錯誤を繰り返してスタッフの練度を上げ、完成度と演者の安全性を高められるうえ、本番の時間を短縮(つまり予算節約)するのにも役立つとされる。
この映画には、アクションシーンに定評ある『キングスマン』シリーズを手掛けたアクション監督(ジュード・ポイヤー)が入っているので、このエレベータのシーンはそれらに匹敵する良さがある。
願わくばこのレベルの見せ場をあと二つ三つ配置していたら……と思うがこの予算規模の作品では難しいのだろう。
復讐劇としてはその他、特にどうといったところはないが、全体的に丁寧に撮られた絵作りなのがよくわかり、その点はさすが映画大国フランス。他国のチープなB級アクションとは一線を画している。
R18+のレーティングからわかるとおり、描写については情け容赦ないものがあるので、刺激が欲しい、暴力描写になれた人に向いている。
一方、そういうのがニガテなライトユーザーは、もう少し別のチョイスがあると思うのでお気を付けのほどを。