『スタートアップ!』80点(100点満点中)
19年 韓国 PG12 監督:チェ・ジョンヨル 出演:マ・ドンソク パク・ジョンミン チョン・ヘイン

≪似合わない人生を送るすべての人への応援歌≫

たいていの仕事に当てはまることだが、質を高めるにはある程度以上の量が必要である。イチローでさえ、ヒットを打つのはせいぜい4割。逆に言えば、つべこべいわずに大量の仕事をしさえすれば、ある程度は質の高い結果も交じってくる。質は常に量が担保してくれるのである。

『新感染 ファイナル・エクスプレス』(16年)でブレイクした韓国のマッチョスター、マ・ドンソクは年齢的には遅咲きということもあって、遅れを取り返すかのように、その後の数年間ですでに10本以上の映画に出演している。

ジャンルを見ると、アクションあり犯罪ものあり学園ドラマありと、悪く言えば節操がないが、その「量」こそが質を担保する。

最新作『スタートアップ!』は、コワモテなアクションスターという、ブレイクしたきっかけとなった彼のイメージとはかけ離れた役柄だが、予想外のはまり役かつ、作品の質も高いコメディーであった。

勉強嫌いでバイクで走り回って遊んでいる若者テギル(パク・ジョンミン)は、母親(ヨム・ジョンア)とけんかして家を飛び出してしまう。あてもなくバスに乗り、偶然降りた街で入った中華料理店で彼は、コソク(マ・ドンソク)というただならぬオーラを放つ厨房長と出会う。

持ち金もなくなり、住み込みで働くことになったテギルが、変わり者だが愛すべき人々と出会う中で成長していくハートウォーミングなコメディーである。

……というとおとなしい感動ドラマ的な紹介になってしまうが、実際はこの映画、かなりぶっとんだ、アクの強さ100の個性派ムービーである。

なんといってもマ・ドンソク演じる男のキャラがすごい。おかっぱ頭でTWICEのダンスを踊るのが好きで、しかし口が異常に悪くて煽り気質。さらには乱暴者で化け物じみた怪力自慢ときた。いったい何という不気味な生物かと、登場した瞬間から尋常じゃない存在感を感じさせる。

そんな彼にくわえ、無表情でボーイッシュでめっぽうけんかが強い美少女という、これまた異質な生き物との出会いもある。謎めいた展開が二つも配置され、物語的にも退屈しない。

彼ら二人は基本、非常識で自分勝手なジャイアン気質である。一方、主人公は一応まともなのですぐ彼らと口論になるが、たいてい最後は、コテンパンにぶん殴られて理不尽な敗北を喫して終わる。絵にかいたようなドタバタ喜劇で、笑いが止まらない。

とくに、マ・ドンソク演じる男とのやり取りがいい。この男ときたら、主人公にかかってきた電話に勝手に出て「テギルは死んだ、人生の幕を下ろした」などとデタラメを言って相手を仰天させたりする。

真面目に話していても、二言目には主人公を馬鹿にし、皮肉を言って、あおり笑いして一人で勝手にバカ受けしている。マ・ドンソク以外に、こんな役柄を演じられる人が思いつかない。まったくもっておもしろすぎる。

この映画がよくできているのは、こうした馬鹿キャラたちの設定に、実はちゃんとした理由付けがなされている点である。後半は、そんな彼らの実は壮絶な過去が明らかになり、怒涛のドラマチック展開へと突っ走る。

笑いまくって、つくりの良さに感心して、感動して終わる。韓国映画はこの手のコメディーエンタメ作りが本当にうまい。

だが、この映画の本質は、似合わない仕事や人生を送り、孤独にさいなまれている人々への応援歌であり、救いの物語である。

感染症や不況や増税。現代は、多くの人々が厳しい状況にある。誰だって何らかの問題を抱えている。

だが人と出会い、ダメージは受けながらも正直でまっとうな決断を下していけば、かならず人生は始動できるんだと。そう伝えようとしている。

再起動ではなく始動。始まりなのだと言っている。ここからが始まりだぞ、今までは始まる前だったのだと、そういうテーマである。だから『スタートアップ!』原題は「始動」なのである。

実に希望を感じさせるいい映画ではないか、私は気に入った。



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