『完璧な他人』65点(100点満点中)
INTIMATE STRANGERS 韓国116分/ハーク/映倫:G
監督:イ・ジェギュ 出演:ユ・ヘジン | ヨム・ジョンア

≪もしもスマホの中身を皆に公開したら?≫

会話劇だけでコメディーからサスペンス、ミステリーまで堪能できるイタリア映画『おとなの事情』(16年)は、観客のみならず多くの映画製作者を魅了した。たしかに、携帯電話のみせっこという、子供じみた行動とは裏腹に、すべての人間関係を破壊しかねない余興を始める大人たちの姿は、目を覆わんばかりの恐怖映画でもあり面白かった。はたして韓国を舞台にしたリメイクである本作の面白さはどうだろうか。

豊胸整形医のソクホ(チョ・ジヌン)と精神科医のイェジン(キム・ジス)夫妻が、旧知の仲間たちを招待して宅飲み会を開いた。ラブラブ新婚カップルの飲食店経営者ジュンモ(イ・ソジン)と若妻セギョン(ソン・ハユン)。3組目は仮面夫婦のマザコン弁護士テス(ユ・ヘジン)と主婦ブロガーのスヒョン(ヨム・ジョンア)。さらにおひとり様参加の体育教師ヨンベ(ユン・ギョンホ)だ。くしくも月食の晩、心地よく酔いが回ると、彼ら7人はだれからともなく「スマホへの着信やメールを公開するゲーム」を始めようと言い出す。

ここから先は、各人にきたメールやSNSメッセージ、電話などが、世にも恐ろしい、あるいは爆笑できる騒ぎを巻き起こす、ノンストップのスリルアドベンチャー会話劇が繰り広げられる。

いかにもありそうな展開あり、こちらの予想を上回る強烈なそれもありと、大人の男女ならば退屈知らずの116分間となる。

イタリア版はヨーロッパらしいシャレオツな会話劇で、ジョーク一つとってもウィットがきいているようなものが多かった。だが韓国版は、成功者の家を舞台にしているというのにどこか泥臭く庶民的。食事の様子にしてもイタリア版はうまく録音や音量調整で隠しているのに、韓国版は咀嚼音がまんま収録されていて耳障り。あまり気にしない国民性なのかと思わされる。

基本的にはオリジナルに忠実なリメイクだが、決定的に違う部分もある。ネタバレになるのでわからないように書くが(見た後に読めばわかるが)、それはある女性が家に戻ってくる展開である。これは、7人の中で唯一イタリア版とは違ってのっぴきならない秘密を持つ人物を、賢者キャラにできない儒教的理由でそうなったものと思われる。あの女性が戻ってこないと、あまりにも観客に受け入れられない選択をこの人物が行ったことになってしまう。

こうした違いにより、テーマにかかわるラストの夫婦の会話が、イタリア版と韓国版でまるで意味合いが異なっているのが面白いところである。どちらも同じことを言っているのに、韓国版では自己保身のひどい言い訳に聞こえてしまう。

それを補完するように、3つの人生についてのくだりを韓国版だけ挿入しているが、結果的には少々荒っぽい印象が残った。

とはいえ、どちらかだけを見ても十二分に楽しめるので問題はない。両者を見比べた人だけが、この小さな、だけれども興味深いイタリア韓国間の国民性の違いというものを楽しめるというだけだ。

ギャグはキレていて、キティちゃんについての会話とか、ベランダでの記念写真の一連のシークエンスとか、声を出して笑わざるを得ないレベルの笑いがたくさんある。韓国映画はギャグの切れ味が鋭い。ここは美点といえる。

それにしても、スマートフォンを家族に見せるなどという行為を平気で出来る人がどれくらいいるだろうか。IT力の高い、頭の回転が速く新技術の利用にもいち早くついていける人たち。つまりこの映画に出てくる人のように、成功を収めた人や、能力の高い人ほど、そんなことをしたら身の破滅だろう。

ストレスの多い仕事は収入も高いが、それに耐えるには人様に言えないような事をやったりして精神のバランスを保たねばならない。そんなものを暴いても何の得もない。今が幸せならば、パートナーは余計な詮索はせず、現状の距離を保ったほうがよいのは当然。それが大人のたしなみである……。

なわけないでしょ! 愛しているなら秘密なんてないはずよ。堂々となんでも見せられるはずよ。

どちらの意見にも、そりゃ理がある。さて、果たしてこれを見たあなたは、横の愛する人とどんな会話を交わすことになるのだろうか。くれぐれも、二人の関係が壊れるようなことがないよう、あと、スマホのみせあいなどという、誰も得をしない危険な行為をカノジョが言い出すことがないよう、祈ることとする。



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