『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』75点(100点満点中)
IT: CHAPTER TWO アメリカ 169分 ワーナー・ブラザース映画 映倫:R15+
監督:アンディ・ムスキエティ 出演:ジェームズ・マカヴォイ ジェシカ・チャステイン

≪デカ盛り満足、怖すぎ危険≫

渋谷のハロウィン騒ぎは、お酒禁止などの抑制政策が効いたか不発だったと聞くが、映画『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』は日本市場でも大商い、大ヒット邁進中だ。ホラー映画は数あれど、こいつはかなりキョーレツな部類なので、まずは気を付けてご鑑賞のほどを、とアドバイスしたい。

子供たちを容赦なく殺していた不気味なピエロ、ペニーワイズ(ビル・スカルスガルド)をルーザーズたちが封印してから27年。再び彼らの町、デリーで不可解な連続児童失踪事件が起きはじめる。大人になったビル(ジェームズ・マカヴォイ)たちのほとんどは町を離れていたが、あのときの約束通り再集結する。

前作はトラウマ級の恐怖体験で、観客はもちろん、ルーザーズの連中も正直、またあのピエロと対決するなんて御免こうむりたい状況。だから皆渋々、本当はいやだけど……といった具合で集まってくる。そりゃそうだよね、ご愁傷様とこちらも同情してしまう。

あんなにかわいかったあの子やこの子が、27年間たってかなり見違えた様子になっていて苦笑するが、前作そのまんまの子役キャストたちのシーンも時折でてくるので、なんとか脳内で対応表を作って対処する。この、誰がだれだかわからなくなって混乱するのが本作の悪しき特徴なので、可能な限り直前に前作をみるなどして予習し、心の準備をしておくことが望ましい。

ノスタルジーと恐怖。まさにスティーヴン・キングの世界で、映像技術が発達した今はそれをおそるべきリアリティーを持って表現できるから、アメリカでもこのシリーズは大ヒットした。

その続編ということでアンディ・ムスキエティ監督もさらにアクセルをふかし、もはやペニーワイズがザコに思えるくらいにおっかないシーンが続出するので要注意である。

個人的なオススメは、逃げるルーザーズが3つのドアから一つを選ばなくてはならなくなるシーンである。怖くないドアか、怖いドアか、ものすごく怖いドアか。

あのクソピエロが用意したドアである以上、どれも選びたくねーよと思うほかないわけだが、そこでのやり取りは大爆笑から超絶恐怖まで、グワングワンと感情を揺り動かす名演出で、本作屈指の見せ場となっている。

ほかにも真昼間の巨大像とか漫☆画太郎とか、勘弁してほしいレベルの見せ場が連続する。まさに恐怖のデカ盛り。品川登龍の世界である。1800円も払って、こんな怖い思いをさせられるのではたまったものではない。……と、わけのわからない矛盾じみた苦情をいいたくなる。

このシリーズは、誰もがもつ、子供時代の思い出に残るトゲのような話である。いじめた側もいじめられた側にもある、そんな心のトゲ。それを、決して優等生的な因果応報的展開に描かないところがなんともリアルである。代わりにあるのは理不尽だけ、それを癒せるのは時だけ。その、諦念にも似た価値観に覆われた世界。それがキングの魅力であり、恐ろしいところだ。

そして『IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。』が真に怖いのは、その「時」さえも越えてくる点である。こうなったらもう、人間たちに逃げ場はない。

欧米のホラーはとかくキリスト教的倫理観の枠の中で語られがちだが、キングの物語はこうしてときにそれをはみ出してくる。オカルトを描いていながら、現実味があるのはそのためだ。

この映画は、人間界では小さな悪意の積み重ねが人をむしばむという、その嫌な本質を引っ張り出して私たちの前にさらしてくる。見たくないから見ないようにしていたのに……という、居心地の悪さを体験させる。

序盤のゲイ殺しの連中だって、報いを受けることなく映画は終わる。これが現実だろと、そういうことを計算づくでやるから、このシリーズは怖いのである。

だが、だからこそそれに屈しないルーザーズの友情が光り輝く。それこそが現実の残酷さに立ち向かう、最も貴重で現実的な武器なのだと本作は伝えている。当然ながら、これは暗喩となっている「人生」そのものを生き抜くための武器、でもある。それは、ひとたび得ることができればペニーワイズよりも強い。そこが希望となる。

そこまで描いてくれるから、鑑賞後の気分は実に良い。ああ、こんなにおっかない、気持ちの悪い映像だらけの映画なのに、これじゃなんだか、いい映画を見た時のようなすがすがしい気分ではないか。まったくもって、どうなっているのやら。



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