『国家が破産する日』90点(100点満点中)
DEFAULT 韓国/114分/ツイン/映倫:G
監督:チェ・グクヒ 出演:キム・ヘス | ユ・アイン

≪韓国の話だと思っていたら……≫

韓国映画の『国家が破産する日』。なんだか、「韓国経済や中国経済が破綻する」系のトンデモ本を愛するネトウヨが喜びそうな邦題である。

現実は、どう考えても中韓より先に日本経済がぶっ壊れる勢いなのだが、率先してそれをやってる総理大臣を支持するくらい彼らの認知機能は衰えているのでどうにもならない。

一方韓国は『国家が破産する日』を作り、自分たちの現在の経済的苦境の遠因が97年の通貨危機にあり、それどころかそこで行われた売国的経済政策は、韓国のみならず現在の先進国に共通する問題であることまで示唆している。

まったくもって知的レベルも志の高さも現実の認識能力も段違いで、しかもあろうことかこのレベルの映画を、あちらは長編2作目の新鋭監督がサラリと作ってしまう。

見れば見るほど、日本人としては国と映画業界の行く末に危機感しか感じられない、そんな政治経済サスペンスの佳作である。

97年の韓国。韓国銀行のハン・シヒョン(キム・ヘス)は様々なデータからこのままでは韓国経済が破産すると予測する。しかも残された時間はわずか7日間。政府は非公開の対策チームで対応を図る。一方、金融コンサルタントのユン・ジョンハク(ユ・アイン)も独自の分析から同じ結論に達するが、彼は人生をかけた空売りで一獲千金を狙う。そして、破産によって最も被害をこうむるであろう町工場の心優しき経営者ガプス(ホ・ジュノ)は、そんなこととは露知らず、工場で働く労働者のため、リスキーと知りつつも大きな取引に人生を賭ける。

あらすじからわかるように、主に3つの視点から未曾有の通貨危機とその影響を描き出す。危機を止めようとする愛国者、危機で儲けようとする拝金主義者、ただただ翻弄される労働者、である。ややこしい経済問題を描くためには、この単純さはありがたい。

一方、悪役として出てくるのは財務局の次長である。この男はあろうことか、この危機を利用して構造改革を進めようなどと言い出す。どさくさに紛れて、国の形を自分たちに都合よく作りかえてしまおうというわけだ。

国民はその痛みが構造改革によるものとは気づかず、通貨危機だから仕方がないとあきらめる。それを狙っているわけだ。

この物語をチェ・グクヒ監督は、関係者への取材と政府の報告書を読み込んで脚本に落とし込んだという。

ハンのキャラクターにはモデルはおらず、あのときこんな人物がいてくれたら……との思いで作り上げたヒロインである。演じるキム・ヘスは、かつては韓国一の美巨乳として整形外科医が学会で例に挙げたほどの美魔女だけに、監督の狙い通り観客の共感を一手に集めている。

さて、この映画を見て私が驚いたのは、韓国が、国の経済システムをズタズタに破壊されたこの大事件と、まったく同じことをやった国があることに気付かされたからである。

この改革によって韓国では、株式市場における外資の比率は飛躍的に上がり、株主重視、労働者軽視の経営改革が行われて大企業と中小企業の待遇格差は拡大し、非正規雇用という名の別名奴隷システムが導入された。

え、これって韓国の話だよね……? 誰もが映画を見て思うことだろう。

ちなみに私がよく知る"その国"では、通貨危機など起きたことはない。ないのに、当時韓国がIMFにされたことと同じがそれ以上に売国的な新自由主義的構造改革を、なんと国民自らが選んだ総理大臣のもとでおしすすめたのである。

なんというマゾ国家。なんという間抜け国家。なんという知恵おくれ国民。

言うまでもないが、"その国"とは日本のことである。これでは「ノストラダムスの大予言! 中韓経済大崩壊!」のオカルト・ヨタ本がベストセラーになるのも当然である。

『国家が破産する日』を見て、なぜこんなに腹が立たなくてはならないのか。映画に責任はない、それどころかよくできているからこそ、こんな気持ちになる。

いつになったら、私たちはこういう映画を他人事として笑ってみることができるのか。暗澹たる気持ちにさせられる、そんな一本である。



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