『人間失格 太宰治と3人の女たち』55点(100点満点中)
監督:蜷川実花 出演:小栗旬 宮沢りえ

≪二階堂ふみの脱ぎっぷりの良さ≫

生誕110周年ということで、今年2019年は太宰治関連の映画がいくつか公開される。私が現時点で見たのは『HUMAN LOST 人間失格』と本作。アニメーションながら前者は太宰の"作品"の映画化で、『人間失格 太宰治と3人の女たち』は太宰治その人の人生、つまり史実をもとにフィクションとして描いたオリジナルドラマだ。

太宰治(小栗旬)は人気作家だったが、文芸界の大御所らから見下され、常に批判の対象となっていることにいら立ちを感じていた。そんなこともあり、妻・美知子(宮沢りえ)と幼子がいる身でありながら、自分を慕ってくる小説家志望の静子(沢尻エリカ)や、バーで出会った運命の女性、富栄(二階堂ふみ)らと逢瀬を繰り返すのだった。

7月に『Diner ダイナー』が公開されたばかりというのに早くも次作公開とは、蜷川実花監督イヤーな感じもするわけだが、あのときも言ったが蜷川実花という人にとって原作や元ネタというものは単なる材料のひとつ。自分の中の芸術を表現するための小道具に過ぎない。よって、原理主義的な太宰治ファンとか、いかに太宰の人生を忠実に再現しているかとか、そういうことを期待する人はこの映画の対象からは真っ先にはずれる。

まして本作は、太宰の小説を映画化したものではなく、彼の人生を蜷川監督が独自に解釈して脚色したフィクション。

となれば、人々が期待するのは二点だけ。『Diner ダイナー』でもいかんなく発揮された狂気じみた色彩芸術(これは今回は相当控えめ)と、出演女優のヌードである。

前田はまた何を言ってるんだ、あいつは裸が見たいだけだろうと、いわれのない誹謗中傷を避けるためにあえて書くが、自作で女優を脱がしまくっているのは蜷川監督が勝手にやっていることである。これだけ過去作で脱がし屋としての手腕を見せつけているのだから、「あたしの映画を見に来るからには裸を期待しなさいよ」と解釈するのはしごく自然な事であり、私に責任はゼロ皆無である。

……と、しつこいくらいに免罪符をばらまいたところで安心して批評するが、結論からいえば本作のハダカ担当大臣は二階堂ふみただ一人である。残念ながらもう何度も脱いでいるので新入閣というわけではないが、何しろ年齢が若いので彼女ひとりがこの重責を担うのも当然といえる。

初めて彼女が世間さまにおっぱいを披露した『リバーズエッジ』の時に私が看破したように、二階堂ふみは様々な手腕で鍛え整えたであろうみずからの女子力の象徴に、多大な自信を持っている。

自信があれば見せたくなるのは当然。ということで本作でも堂々たる巨乳をさらし、小栗旬がそれを口に含むという衝撃的な絵図を観客は楽しめるわけである。消費税が10パーセントに爆上げされるのだから、このくらいの楽しみはあってしかるべき。蜷川監督と二階堂ふみは、まさに納税者の味方である。

一方、トリプル主演と話題になってはいるが、結果的に宮沢りえと沢尻エリカは女を下げたというか、二階堂の圧倒的パワーに押されまくっている印象は否めない。

宮沢りえの場合は、『ヴィヨンの妻 〜桜桃とタンポポ〜』(09年)の、絶頂期というべき松たか子の魅力と比較されてしまいがちなのも厳しいところ(「ヴィヨンの妻」のヒロインのモデルは太宰の妻の美知子とされる)。

それでも彼女には抜群の演技力があり、妹葬儀から戻ったシーンなどで大きな見せ場を作っているのでさほど問題はない。

心配なのは沢尻エリカで、彼女の場合は明らかに脱ぐべきところで脱がないし、その不自然さをカバーする何かを持っているわけでもない。このクラスの女優の中では完全に埋もれる。これを見た他の映画監督の多くは、彼女を積極的に使う気にはならないだろう。もっと危機感を抱くべきだ。

さて、この映画は遺作となった『人間失格』の創作秘話的に構成することで、太宰の晩年と表題作とのシンクロ度合いを意識させるストーリーとなっている。その視点から改めて見てみると、太宰の恋の本質は、まさに典型的な相互依存中毒だったのだなと感じさせられる。

ともに最期を迎える富栄はもちろんだが、ヴィヨンの妻こと美知子とて同じであったことが、葬儀後の彼女のショックを受けた表情からよくわかる。恋愛工学を完全に会得した手練れである私に言わせれば彼女もまた、重度のメンヘラである。

そして、世間的には女たらしの旦那を献身的に支えていたと評価される彼女でさえも、太宰に精神的に依存していたと、蜷川監督はそう描いている。3人の子供がいてさえそうなのだ。

夫が酔って帰宅して、虫がどうこうと大騒ぎして、それをなだめて面倒を見る。そんなバカげた様式美に、彼女は依存していた。それができなくなった時に、だから彼女の恋も終わるのである。

だがにんげん、男女関係というのは多かれ少なかれそんなもので、そのような関係はありふれているわけだ。だからこそ太宰の物語は時代を超えて共感を集める。

常識人にみえた担当編集者でさえ、太宰の相互恋愛中毒ぶりを目の当たりして、最終的にはその対象である富栄に襲い掛かった。そのくらいに魔性なのである。富栄という女ではない、相互依存恋愛が、だ。

『人間失格 太宰治と3人の女たち』は、控えめながら監督独特の色彩感覚と、3人の女優、とくに二階堂ふみの魅力、そして今に通ずる恋愛のダークサイドを気軽にみられる、カップルにもおすすめの一本。とはいえ、決して横のカノジョと闇に落ちぬよう要注意。

手足を縛って水に飛び込んでから気づいてももう遅い。くれぐれもお気を付けを。

人間失格 (角川文庫)
表紙がなかなか。


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