『パージ:エクスペリメント』55点(100点満点中)
監督:ジェラード・マクマリー 出演:イラン・ノエル レックス・スコット・デイヴィス

≪サバイバルアクションとしては盛り上がるが≫

一夜限りの犯罪オールオッケーデー。そんな悪魔的、魅力的な設定だけで『パージ』シリーズは4本の映画とテレビシリーズを作ってしまった。『パージ:エクスペリメント』は、この設定=パージ法がいったいどのような流れでアメリカに導入されたのか。ビギニングものとして描く最新作である。

経済崩壊後のアメリカでは、新たな政党"NFFA(新しいアメリカ建国の父たち)"が支配を強めていた。メイ・アップデール博士(マリサ・トメイ)は「国家のために怒りを解放しましょう」と叫び、パージ法の実証実験をNYスタテン島で行うことを決定。わずか5000ドルの報酬を目当てとする貧しい島民らが、半強制的に参加させられることになった。

今回の登場人物はヤクの売人組織の男気あふれるリーダー、ディミトリ(イラン・ノエル)。その元カノで今は反パージ法の活動家ナヤ(レックス・スコット・デイヴィス)。若さゆえのいきがりで、ギャングに参加しているその弟といった者たちだ。

社会的に見れば問題だらけの奴もいるが、共通するのはもっともっと上の者たちから永遠に搾取され続ける運命の、ようするに最下層の人間たちである。ようするに、こういう人間がパージ法によってもっとも割を食うという、シリーズが繰り返し訴えてきたテーマである。

ただ本作が特徴的なのは、彼らが基本的に黒人ばかりで、悪役が白人や白人至上主義者といった、人種的な対立構造を採用した点である。結果的にはこれがアメリカでは炎上の原因となった。

もともと政治色の強いスリラーであるが、ハリウッドの政治的ゴミなどといったいわれようで、本作はコテンパンに酷評される羽目になった。米国での興収も芳しくはなかったようだ。

個々のアクションシーンなどはよくできていて、やたらとマッチョで銃器の扱いもうまいイラン・ノエルのヒロイックさは見所があるし、ワルながら弱いものを守る感動的な展開も盛り上がる。黒人だの白人だのの差別意識と無縁な、多くの日本人にとってはごくごく普通に楽しめるアクション映画となっている。

ストーリーは前日譚ということで、新規客向け6割、既存4割程度の感覚で作られたと思われる。だから本作から見ても、パージシリーズにすんなり入っていける。何度も書いているが最高傑作は2作目なので、見るからにはかならずそこまでは行きついていただきたい。

政治的暗喩は3作目までと比べれば薄味で、その意味でもシリーズの新規開拓を目的とした作品といった印象が強い。

それでも、トランプ支持者の象徴でもある赤い帽子を印象的に使っていたりと、現実の政治批判の思いが込められているのは間違いない。

極端な右派の登場により社会が崩壊していく展開は、日本人にとってもなるほどと思えるのではないか。社会のバランスがいかにもろいものか、バランスを失った社会がどれほど残酷になるかを、カリカチュアして描いている。その点は評価できる。

なぜそんな話になるかといえば、言うまでもなく今が分断の時代と言われ、あちこちで対立がふかまり社会が安定を失いつつあるからで、映画界はここ数年、この点について激しく警鐘を鳴らしている。これもその一本ということだ。



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