『新聞記者』85点(100点満点中)
監督:藤井道人 出演:シム・ウンギョン 松坂桃李

≪日本の社会派映画の到達点≫

インターネット上では、いつしか「加計学園追及チーム」と呼ばれるようになったネットワークがある。会計や法律の専門家および加計学園内部関係者等、数名で構成される彼らは、個々人のスキルを生かした方法で真相に迫るべく、数年間にわたりこの問題を調査・分析している。その分析力は相当なもので、野党議員による国会質問や、マスコミ記事の元ネタを提供したことも一度や二度ではない。

私も彼らと情報を共有し、Twitterで情報発信してきたが、知れば知るほどこの問題は、どこにでもある日本社会の悪しき部分を凝縮したような問題だと痛感させられる。

だからこそ、日本の映画監督は勇気をもって一度映画化しろと言い続けてきたわけだが、なんと本当にやってのけた人物が現れた。『新聞記者』の河村光庸プロデューサーと藤井道人監督である。

東都新聞の記者・吉岡(シム・ウンギョン)は、国家特区の新設大学にまつわる不正の内部告発を受け取る。一方、外務省から内閣情報調査室に出向中の官僚・杉原(松坂桃李)は、安定政権を守るため、メディア統制はもちろん、スキャンダルを封じ真実をゆがめ、プロパガンダを流し続ける内調業務の実態と、官僚としての正義感の間で葛藤していた。

この手の告発ものというか、現実の社会問題、政治問題を暴くような映画は日本でも決して皆無ではないものの、これまでは公開されても決してランキングに入るようなポジションにつくことはなかった。

しかし『新聞記者』は、並み居る大ヒット作を押しのけ10位に食い込み、その後も客足を維持してヒットと呼べるところまで生き残った。これは画期的な出来事といってよい。製作にイオンエンターテイメントを加え、まずは劇場を確保した企画者の手腕がものをいったわけだが、同時に藤井監督の映画作りの実力によるところも大きい。

この監督は、作品に激しい感情を込めるようなタイプではなく、静かな語り口ながら見終わると何かを残してゆくという、観客の心の揺さぶり方をよく知る映画作家である。過去の作品を見ると、長いワンカットの映画を作ったりなど映像面、演出面でのチャレンジも忘れていない。技術面でも安心して任せられる人物と言える。

と同時に、政治的な色がまったくついていなかったことが、今回これほどのアブない企画に抜擢された理由だろう。

じっさい『新聞記者』は、告発暴露系のセンセーショナルさばかりが話題になっているが、ひとつのドラマ映画としても十分見ごたえがある。

東京新聞の名物記者、望月衣塑子氏による原案ノンフィクションがあるものの、脚本化の作業は相当大変だったと聞く。

それはそうだ。安倍政権とその周辺がしでかした不正、もみ消し、ねつ造、それらの疑惑は空前絶後の多さであり、あまりに毎日むちゃくちゃな事実が明らかになるため、国民がもはや覚えきれない状況になっている。ピックアップするだけでも時間がかかるだろう。

彼らのように、スキャンダルをスキャンダルでカバーして生き延びた政権など、これまで日本には、いや世界にも存在しなかった。

彼らはインターネット対策に莫大な金をつぎ込み、まともな意見を封殺。知能と判断力が劣った"ネット右翼"と呼ばれる主に高齢者と子供たちを、信者といってよいほどに洗脳した。

日常生活レベルの認知能力さえおぼつかない彼らのクリックを狙ったまとめサイトや、彼らが心安らかに自己肯定できるデマ理論を巻き散らかす御用文化人、そして出版社は隆盛を極めた。

こうして日本人は、保守のプリンスを自称するインチキ男の登場によって、正義と誠実さと思いやりと論理性、ようするに人間らしさをどんどん失っていった。それがなげかわしい現在2019年の状況である。

こうした状況を打破するには、『新聞記者』のような映画を実力ある映画監督が定期的に作り、そうだあんなことやこんなことがあった、しかもまだ何一つ解決していない、と国民に思い出させる事が必要だ。

『新聞記者』は、スタッフキャスト(とくに立場の弱いスタッフたち)が、命がけの勇気と正義感で作った、性根のこもった映画作品である。安倍政権登場以来の社会派映画の最高峰といってよい。

少なくとも選挙権のあるものは、全員見るべきである。政治に興味が全くなかった監督が作ったものだから、そういう人にもやさしいつくりだ。

本来ならばこういう映画は、山手線全駅前の巨大ビジョンを占拠して、同時に完全無料上映くらいのことをやってもいい。

そのくらい思い切ったパブリシティを行い、街頭上映とは別の形でマネタイズしていくくらいの発想がなければ、社会派ジャンルはじり貧だし、映画じたいがいつまでも古臭い、代わり映えしないメディアと思われかねない。

『新聞記者』は良い映画だし、なにより事実上、加計学園問題すなわち現在進行中の政治スキャンダルを映画化したという点で前代未聞。こうしたチャレンジは高く評価するし、実際ヒットを飛ばしたことで今後もフォロアーが出てくることを期待する。

2019年7月、参議院選挙が終わった直後。検察審査会が求めていた森友問題の再審理を、大阪地検が無理のある言い訳を並べて強引に幕引きするとの情報が飛び込んできた。

このように、この国ではいくら物的証拠を突きつけても、権力者がお縄になることはない。日本に正義はなく、民主主義は退化する一方である。

一刻も早く政権交代させ、真相を明らかにし、犯人を牢屋にぶち込まねばならない。そうでなければ、まともな教養レベルを持つ人ほど日本を嫌いになり、未来は真っ暗となる。

新聞記者 (角川新書)
原案となったノンフィクション。
巨悪VS市民 巨悪対チンカスset
加計学園問題の日本唯一の暴露本。


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