「50年後のボクたちは」70点(100点満点中)
監督:ファティ・アキン 出演:トリスタン・ゲーベル アナンド・バトビレグ
ドイツ版「スタンド・バイ・ミー」
欧米中心にベストセラーとなっている原作の青少年向け小説『14歳、ぼくらの疾走』は、ドイツ版「スタンド・バイ・ミー」などと言われている。なるほどそれは言いえて妙で、この映画版も少年時代独特の、かけがえのない感情とドラマをみずみずしくすくいあげた佳作となっている。
豊かな両親と暮らしながら、クラスではまったくパッとしない平凡な14歳のマイク(トリスタン・ゲーベル)。そんなある日、学校にやってきた転校生チック(アナンド・バトビレグ)は、マイクとは正反対に何もかもが破天荒で恐れ知らずの性格で、あっという間に孤立する。ところがチックはなぜかマイクにだけは親しく話しかけてくる。挙句の果てには夏休み、盗んだオンボロ車で突然おしかけてきて、地図にない"ワラキア"を目指す旅に出ようなどというのだった。
車を運転したり大人を出し抜いたりと、妙に大人っぽいかと思えば、子供じみた冒険に胸躍らせる二人。男性なら誰もが思わず共感してしまう、14歳らしさがつまったとても愛おしい映画である。
かつては皆が持っていたのにいつしか失った、大切なものを思い出させてくれる作品と言い換えることもできる。だから、久々に古いアルバムを引っ張り出して眺めてみたいなと、そんな風に思える人に向いている。
旅の足となるのがラーダ・ニーヴァというのも魅力的だ。日本人にはあまり知られていないがロシアのSUVとして強い個性とノスタルジックを感じさせる車種で、これまた欧州の人には特別な感情を思い起こさせるアイテムとなっている。
チックはバカだし外見も変だしむちゃくちゃばかりやる転校生。マイクは彼に比べれば普通の少年だが、両親にいろいろと問題を抱えている。この二人に決定的な共感をもつのが、クラスのパーティーに、マイクのためにチックがある絵を持って乗り込んでいくシーン。詳しくはあえて語らないが、痛快で、思わず泣ける。様子見していた日本の観客も、ここから一気に引き込まれるだろう。
音楽好きで知られるファティ・アキン監督が、作品テーマを計算して配置した曲の数々も見どころの一つとなっている。とくにリチャード・クレイダーマンが流れる場面は万国的な笑いどころとして大いに楽しめよう。
二人が旅のための食料として、缶切りのない缶詰と、レンジのない冷凍ピザを持ってくるシーンなど、ある種の象徴的というか、思わせぶりな演出も多々見られる。
変人と不良の物語、そこに不思議でセクシーな女の子が加わり……といった表面的な部分だけでも十分面白い。旅のシーンが退屈知らずで面白いことばかりが起こり、魅力的なのでぜひ大勢に見てほしいが、女性の裸がちょっぴり出てくるのと、見様によっては犯罪指南ムービーなので簡単に子供に見せるわけにはいかないのが少々残念なところか。