「ナミヤ雑貨店の奇蹟」35点(100点満点中)
監督:廣木隆一 出演:山田涼介 村上虹郎

山田涼介に救われたお涙ちょうだいドラマ

廣木隆一監督は幅広いジャンルの映画を作る人である。とくに「ヴァイブレータ」のような人間の心の闇というか、そういうものを引っ張り出すようなドラマを撮らせるとうまい。

ときは2012年。敦也(山田涼介)たちは、なにやら悪事を働いたようで夜の街を走り逃げている。彼らは一人があらかじめ下見していた空き家に逃げ込む。そこはかつて店の主人(西田敏行)が街の人々の悩み相談の手紙を引き受けて好評だったナミヤ雑貨店。とりあえずの隠れ家を確保してほっとした彼らだが、店のシャッターから手紙が差し込まれ愕然とする。その悩み相談の手紙の日付は、なんと1980年だったのだ。

大人向けの人間ドラマには力を発揮する廣木監督。しかし過去作の出来を見るに、この手のお涙ちょうだいのハートウォーミング系にはまったく向いてないと私は思うのだが、なぜかしょっちゅう撮っている。依頼者はもう少し適正というものを考慮したらどうなのか。

今回も、ダメ映画を絵にかいたような実写映画に仕上がっている。説明しなくてもいいことをセリフでしゃべらせ、説明しなくてはならないことをスルーしてムダにわかりにくくしている。

過去からの異様な手紙が届いたときの少年3人の行動、とくに嬉々として返信する流れがどうにも不自然。ああいうシチュエーションであんな不自然な手紙が届いたらどうなるか、もう少し頭を絞って演出してほしいと思う。

タイムスリップ手紙に返信しないと物語が進まないのだから仕方がないということだろうが、ここは観客を共感させるために超えねばならない最初のハードルである。だが東野圭吾の原作を読んでいない人には、この少年たちの行動には最初から違和感ありありに感じられるだろう。説明不足というか、したっ足らずである。

一方で、西田敏行と成海璃子が白紙の手紙を受け取る場面を繰り返すなど、やる必要のない部分がまわりくどい。こちらは小学生じゃないんだから、伏線とその結果なんてものを過剰に説明する必要はない。

もう一つ言うと、セリという少女の歌がシャッターの向こうに流れる場面。ここが大きな問題である。具体的には、主人公らのリアクションが薄すぎてシーンの目的が台無しになっている。ここは観客に「え、なになに、なんでこいつらこんなに驚いてるの? さっきまでのスカした様子が激変じゃん」というくらい過剰に反応させねばならなかった。

なぜならこの場面こそが、少年たちがタイムトラベル手紙の不思議設定を信じざるを得なくなる、決定的なシーンだからだ。彼らが感じた「ありえねーことなのに信じるしかない」感をここで観客に共有させておかないと、その後の感動シーンが泣けない。

また雑貨店の過去を描くパートにおいて、悩み相談窓口を人々が気軽に利用している様子が描かれるが、それじたいも非常に不自然に見える。あんな雑貨屋があったとして、あのような深刻な悩みの手紙を投じるだろうか。この映画で見る限りでは、絶対にありえないだろうと思えてしまう。説得力が足りなすぎる。

「タイムゲート郵便入れの設定を少年たち3人が受け入れる」点と合わせて、どれだけ説得力を持たせられるかが、このストーリー最大の胆であり難所であった。

文章力でどうにでもなる小説と違い、実写としてはこれはなかなかの難易度である。大人向けの映像とか重厚な演技とかスタイリッシュな編集とか、そういうものが役に立つと思われるが、この映画には一つもない。チープで昭和的な、おっさんくさい健全型ムービー。これではだめだ。

そしてこの手の邦画で私がいつも思うのが、どうしてこんなにうるさく音楽を鳴らすのか、ということだ。ピアノソロなどもっとシンプルにすりゃいいのに、徹頭徹尾大げさで「さあここで泣いてください」といわんばかり。うっとうしくて仕方がない。きみたちは、音を鳴らしていないと死んでしまう設定でもあるのか。

ただでさえ安っぽい話に安っぽさを重ねているようで、これでは自滅への道まっしぐらである。これは曲がいい悪いではなく、似合っていないということ。

唯一頑張ったと思うのが、主演の山田涼介。孤独につっぱっている、しかし地頭のいい少年の役作りを見事にこなした。白紙の手紙への返信をうけたときの演技はとくによかった。天性のものだろうがこの人は表情の作り方がうまく、映画俳優向きだ。

単なる美形ではない個性的な顔つきで華もあるし、プロとしての自覚もある。これは私が何度かインタビューして感じた事だが、毎回こちらに役立ついいコメントを出そうとして準備しているし、意外と映画スターの素質があるのではないだろうか(気の利いたコメントを出せるかどうかは主演級の俳優としては非常に重要なスキルである)。

ピアスをはずした後日談のシーンにも説得力があり、映画にさわやかな感動を与えている。こういうダメ映画でも、彼のようなスター性のある人間が出ているとなんとかみられる。スターとは、かようにパワーがあるものなのである。

本作は山田涼介に救われたが、映画の本体があまりに弱い分、彼にそれだけの力があることが判明したことは、大きな救いではないかと思われる。



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