「東京喰種 トーキョーグール」45点(100点満点中)
監督:萩原健太郎 出演:窪田正孝 清水富美加

忠実な実写化だが

「東京喰種 トーキョーグール」は石田スイの原作漫画が大人気なだけでなく、主演の清水富美加が精神を病み出家する原因となったひとつではないかということで、大変な話題になっている。

喰種(グール)とよばれる亜人種たち。彼らは人肉のみを食料とすることから駆逐対象となっていたが、普段は身を隠して人間社会に溶け込み暮らしていた。平凡な大学生のカネキ(窪田正孝)は喫茶あんていくの常連だが、そこで出会ったリゼ(蒼井優)という美少女に惹かれ、やがてデートにこぎつける。

原作でいう3巻くらいだろうか、そのあたりまでを無難にダイジェストした内容となっている。

喰種というのはゾンビと違って、ちょいと噛まれたらキミも仲間、ゾンビゾンビ! というわけにはいかない。ひとたび襲われたら骨まで無駄なくいただきました、の世界であり、人間とグールの関係はどこまでいっても捕食者とエサ、である。

そんな中、カネキは意図せず自分も喰種となってしまうが、これはきわめてレアなケースである。「東京喰種 トーキョーグール」は、そんな悲運にみまわれた男の物語である。

生まれながらの喰種と違ってもともと人間だからカネキは人肉を食らうことができない。だが喰種となった彼はそれを食わないと生きていけない。彼が両種族のはざまで悩む姿が描かれる。そんな彼を受け入れてくれたのはトーカ(清水富美加)らが形成する"喰種コミュニティ"であり、やがてカネキは彼らと交流するうち、元人間ながらも喰種の境遇に同情し、共感していくことになる。

さて、喰種というのは、人間を襲うときには凶暴モードにトランスフォームし、見るからにおっかないホラーモンスターと化す。赫子(かぐね)と呼ばれる武器(捕食器官?)はグールごとに違った特徴と形をしていて、それによって戦闘力が大きく異なる。見ている側としても、ポケモン的興味をそそられる。

面白いのは人類はすでに喰種の存在と弱点を把握しており、発見されたら最後、グールとて人間側の武器の前にはひとたまりもない。人数が違いすぎるのだ。

この喰種と人間のバトルアクションが映画でも見せ場となっている。人間側も赫子(かぐね)を武器化したもの(クインケ)を装備することで、タイマンでは喰種を圧倒する。このあたりはさすが漫画版とは比較にならない迫力で、ファンなら映画館で見る価値もあるだろう。

とはいえ、未読者の頭にはこの戦闘シーンは大きな疑問が浮かび続ける。それは「なぜアンタたち警官は銃を使わないの?」というものだ。

とくに喰種対策局の若きエース、亜門が使うクインケの見た目が、ありえないほど格好悪い実写化となっており、その巨大なバーベキュー串で戦う必然性がまったく見当たらないのが問題である。

演じる鈴木伸之は素晴らしい肉体美を仕上げてきており、キックボクシングの練習シーンでも目を見張る迫力の動きを見せている。そうして期待を高めまくっていざ実戦になった途端、なぜかハリボテ感たっぷりのバーベキュー串でグールとチャンバラを始めるのである。そのシュールな図柄に、未読者は一人もついていけないこと確実であろう。「え、なにこれ銃抜きルール?」「銃なし縛りで戦うん?」「なんで串?」と思うこと請け合いだ。

もちろん原作を読み進めればそのあたりの理由づけはあるものの、実写版では説明不足は否めないだろう。グールは鉄骨で死ぬんだから銃でも死ぬだろうと皆思うわけで、そうした絵的なインパクトが強い分、多勢による銃攻撃を優先しない点はよりしっかり印象付けないといけない。

ただし、この実写版はキャストがみな素晴らしいのでそうした舌ったらずな部分をカバーできている。鈴木伸之以外にも、この人以外いないといわれてキャスティングされたカネキ役の窪田正孝、その親友ヒデ役の小笠原海、原作以上に怖いリゼ役の蒼井優、ヒナミ役の桜田ひより、いるだけで異様な色っぽさをかもしだすカヤ役の佐々木希などなど、悪い部分が見当たらない。

なかでもグールを追い詰める真戸役の大泉洋の狂気をはらんだキャラクターは、圧倒的な強さを誇る戦闘シーンの出来も含めてとてもいい。

さらにもう一人あげるとすれば清水富美加。実写版ではヒロインとなるトーカそのものといった風貌で、22歳とは思えぬ落ち着きはらった態度は、まさに死線をくぐってきた喰種といった感じ。腕を食ったり肉じゃがを嘔吐したりと忙しい。心が壊れるに値する体当たり演技ということで、ファンならずとも必見であろう。

まとめると、一部格闘シーンの見た目およびいかにもありがちなおバカ展開があるものの、キャストが頑張っているのでそこそこ持っている。それほど思い入れのないライトな読者であれば、(他の漫画実写化映画がこぞってハードルを下げてくれていることもあって)そこそこ満足はできるだろう。

続編をもし作るのであれば、まずは原作の内容を忘れて初見のつもりになって脚本を精査すること。グールと人間のはざまにいるカネキに何を語らせるのか、もう少し意外性のあるテーマを設定すること。この2点に気を付けたら良いものができると思う。

あとは、清水富美加をなんとか説得して次も出てもらうこと。これが一番難しいか。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.