「パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊」40点(100点満点中)
監督:ヨアヒム・ローニング エスペン・サンドベリ 製作:ジェリー・ブラッカイマー 出演:ジョニー・デップ ハビエル・バルデム

昔の栄光に頼りすぎ

原題とは全然違う「これで最後か」と誤認するような邦題、予告編で映画最大の驚きをバラしてしまうなど、普段の私なら批判だらけになりそうな要素満載のシリーズ第5作。とはいえ、もうそんなものには腹も立たなくなるほどに平凡なポップコーンムービーなので、そのあたりはまとめてスルーする。

ウィルの息子ヘンリー・ターナー(ブレントン・スウェイツ)は父親を救うため、すべての呪いを説くポセイドンの槍を探していた。そのため彼は海賊ジャック・スパロウ(ジョニー・デップ)の協力を仰ごうとするが、全く違った理由でジャックも同じものを探していた。だが、彼らの前には“海の死神”こと海賊の天敵サラザール(ハビエル・バルデム)が立ちふさがる。

良くも悪くもない、ごく普通のポップコーンムービー。それも自動販売機で売ってるような大量生産のポップコーンである。l

シリーズを支えていたオーランド・ブルームとキーラ・ナイトレイを顔見世程度に出演させ、人気キャラのバルボッサには後付けとしか思えないような設定を披露させる。恒例のエンドロール後のシーンも含めて、昔の栄光に頼りすぎ。そんな斜陽な印象を受ける5作品目である。

何作たっても同じところをグルグルしている閉塞感あるストーリーを見ると、これがはたして自由を表掲する海賊の話かと、そろそろうんざりしてくる人も多いのではないか。

一番問題なのは、こうもシリーズキャラクターの持ち回り的な展開ばかりだと、誰かが死んでもどうせまた復活するんでしょ、ということでドキドキしなくなる副作用である。

この映画だって、どうせあの程度はこのシリーズでは擦り傷程度のダメージ扱いである。続編で出てくるだろうとみんな思っているからなんのショックもない。

映像面では、見た目の怖さは相変わらずで、ハビエル・バルデム演じるサラザールのアクの強さ、巨大サメにおそわれるシーン、呪いの兵士たちなどビジュアル的にはじつにおどろおどろしい。

このあたりはPG12マニアのジェリー・ブラッカイマーらしいところだが、精神的なダメージを受けるような残酷なものは絶妙に避けているあたりはさすがのうまさ。怖いもの見たさにあふれる少年少女への配慮がうかがえる。

パイレーツ・オブ・カリビアンは海賊映画は当たらないジンクスを打ち破り、史上最大のヒットシリーズとなったわけだが、ぼちぼち北米での興収は落ちてきている。それでもアジアを始め全世界では人気が継続しているので、まだまだ作られる。

今回とて、予算を220億円もぶっこめるのだから中国市場おそるべしなのだが、それでもリスクヘッジとして製作費は抑制傾向にあると聞く。海賊船もフルセットはやめてCGメインにしたし、上映時間が縮まったこともあって、なんとなくスケールダウンした印象である。

シリーズファンにとって最大の問題は、ハンス・ジマーから弟子筋のジェフ・ザネリに音楽が変更され、あの勇壮なオリジナルテーマがどうにも受け入れがたいアレンジ版になっていることだ。これにより、映画の魅力は大きくスポイルされたと感じる人は少なくないだろう。

それを補完するはずのオーランドとキーラが本格的に活躍するのはどうみても次回作となるので、その意味で本作は壮大な予告編と揶揄されても仕方がない。

そんなわけでこのシリーズは間違いなく次が最大の正念場となる。ここで踏ん張れないと、いよいよシリーズは終息していく方向となるのだろう。本作の出来を見るに、相当なてこ入れが必要なのは間違いない。要注目である。



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