「22年目の告白-私が殺人犯です-」85点(100点満点中)
監督:入江悠 出演:藤原竜也 伊藤英明 夏帆 仲村トオル
安定の藤原竜也劇場
藤原竜也は作品選びのセンスが良いのだろう、出演作品が大外れすることはまずない。韓国映画「殺人の告白」の日本映画版リメイクにあたる「22年目の告白-私が殺人犯です-」も、その主演映画として抜群の出来栄えである。
1995年におきた連続殺人事件で犯人をあと一歩まで追い詰めながら取り逃がした刑事、牧村航(伊藤英明)。あれから15年、時効の成立を牧村は無念の思いで見つめていた。ところがその後、犯人を名乗る曾根崎雅人(藤原竜也)がマスコミに登場。一般人が知りえぬ事件情報を記した犯行手記を出版、大ベストセラーとなって一躍時代の寵児となるのだった。
なぜさほど知名度のない韓国映画をリメイクし、藤原竜也ほどのエース級を主演させるのか。見る前はその真意はわからなかったがなるほど、これは見事な脚本である。
しかも、だ。韓国映画版の特徴だったてんこ盛りのアクションをほぼカット。日本版は純粋なミステリドラマに仕立ててある。
なんとも大胆で改変だが、これが功を奏している。日本であのアクションをやったら、荒唐無稽感ばかりがつのることだろう。エンタメ映画的にはあったほうがいいに決まっていると思いがちだが、あえて削った勇気をほめておきたい。
と同時にそれは、この内容とキャストならばアクションなど不要。ミステリ的要素だけで十分に、それこそ韓国版以上に観客を満足させられるとの製作陣の自信でもある。そこがなんとも頼もしい。
見てみると、まったく彼らの狙い通りに仕上がっていたわけだが、成功の最大の理由はキャスティングにあるだろう。
小憎らしい時効犯を演じる藤原竜也。彼を長年追い続けてきた、地べたを這いつくばってホシを挙げる古いタイプの刑事役、伊藤英明。
この、一見食い合わせの悪そうなスター二人を何故初共演させたか。
見終わってみればきっとわかるだろう。この二人でなければあれの効果は薄まっただろうし、共感というものもスポイルされていたに違いない。
その意味ではやはり本作もいつもの藤原竜也劇場なのであり、彼以外にあの役は考えられない。たとえ演じても彼以上にうまくやる者はいないと誰もが思えてしまう。これは本当にすごいことだ。
冒頭から大ヒントをチラ見せさせるなど伏線もしっかりしている。どうしてこういう映画を作れる監督が「ジョーカー・ゲーム」みたいなものを作ってしまうのか、首をひねるほどだ。どう考えてもあれが実力だったとは思えない。
それはともかく、この傑作にも多少の欠点がないわけではない。とくに真相に少々無理があるとか、解明経緯についてなども、いろいろとツッコミどころはある。
だが、それらは結局、大した問題ではないと私は結論付ける。もともとそういう、堅牢なミステリを楽しむ映画ではないし、それを補ってあまりある魅力が本作にはある。ミステリというものも、厳密さを求めるばかりが能ではない。
最後に、この映画を見る際には、大きな見どころとなっているテレビ討論の場面。これが始まったら、そこでのセリフすべて暗記するくらいの勢いでしっかり味わっておくとよい。本当に面白いし、スリリングなやりとりにハラハラできる。