「パトリオット・デイ」65点(100点満点中)
監督:ピーター・バーグ 出演:マーク・ウォールバーグ ジョン・グッドマン
主に米国民と被害関係者むけ
アメリカで重大事件が発生すると、さほど間を置かずに映画化されることが珍しくない。先日もUSエアウェイズの不時着事件を映画化したクリント・イーストウッド監督の「ハドソン川の奇跡」が公開され好評を得たばかり。あれもまだ10年もたっていない。
2013年4月15日、ボストンマラソンの開催中、コースわきで爆発が起きた。混乱と悲鳴の中、ボストン警察のトミー(マーク・ウォールバーグ)は必死に事態の収拾にあたる。現場にはほどなくFBI捜査官リック(ケヴィン・ベーコン)もやってくる。トミーは現場を最もよく知るものとして、リックのもとで、ときに彼らと衝突しながらも犯人捜査に尽力する。
USエアウェイズは09年だが今度は13年。ボストンマラソン爆弾テロ事件の映画化である。発生はまだほんの数年前。被害者たちが一体どんな気持ちでこれを見るのかと心配になるが、「パトリオット・デイ」は幸い、単なる下世話な興味で作られた映画ではなかった。
私がこの映画を評価するポイントは、これまでほとんど明らかにされていなかった、犯人との追跡劇の詳細、そこで起きていた意外な事実をいくつか明らかにしている点である。
特に観客が驚くであろう場面は、逃げる犯人と警察との激しい銃撃戦であろう。
ここでは、いかにも映画的な大幅な脚色と思われるド派手なアクションシーンが繰り広げられ、なるほど実話の映画化なんてカッコつけても結局こうしてエンタメ性を加えるわけね……と思ったりするわけだがさにあらず。
実はこのシーン、詳細なリサーチを行った上での、事実に基づく演出ということらしい。私はあまりこの事件の海外ニュースを追いかけていなかったので、この事はこの映画で初めて知った。私のような観客がこの映画を見た場合、次々と明らかになる実話ネタに圧倒されることになるはずだ。
そして、事件規模に比してきわめて早く、犯人を検挙し解決した捜査機関の努力と尽力に尊敬と感謝の念をいだくことになるだろう。
なにしろ普段私たちは、テロ事件の捜査がどう行われるかについて、あまりにも無知である。
その点「パトリオット・デイ」では、細かくその舞台裏を、なるべく一般人にもわかりやすい形で見せてくれるのでたいへん助かる。
とくに事件現場を広い屋内に町並みごと再現するシーンはその力技にびっくり。破天荒にさえ見えるが、アナログとデジタルを融合させた大胆な捜査手法であり見ていて飽きることがない。彼らは絶対に届かないと思われた犯人に、こうしたやり方で一歩一歩迫ってゆく。えらい気迫である。
この映画の効能の一つは、こうした現場の捜査官たちへのリスペクトをかきたてるところにあるだろう。
そしてもう一つは、ニュース報道の中ではたんなる無名の被害者だった人間たちに、この映画が改めて名前を与えたという点だ。前半の日常を描くドラマ部分はやや長く感じるが、この目的のための必然であるからぜひ真剣に彼らの名前と背景を心に留めつつ見てほしい。
全体的に、詳細が判明していない部分は無理して描こうとせず、わかっていることを極力丁寧に見せたという印象。誠実な映画づくりと感じる。
唯一の問題は、この映画はあくまでアメリカ人向け、あるいは被害者にシンクロできる立場の人を優先した映画であるということ。彼らに見せて励ます、リスペクトを表明する、そうしたコンセプトの映画である。
非業の死を遂げた被害者たちにも、かけがえのない人生があった。それは映画にする価値があるし、記録に残す意味もある。
そんな作り手の強い意志が伝わってくる好編ではあるが、そのあたりを考えた上で鑑賞するかどうかを決めると間違いがないだろう。