「LOGAN/ローガン」65点(100点満点中)
監督:ジェームズ・マンゴールド 出演:ヒュー・ジャックマン パトリック・スチュワート ダフネ・キーン

子供お断りの完結編

「X-MEN」シリーズを支えてきた主人公ウルヴァリンにとっての完結編「LOGAN/ローガン」について、ジェームズ・マンゴールド監督は当初からR指定を条件にスタジオ側と交渉していたという。一方演じるヒュー・ジャックマンも自身のギャラを減らしてまで、その点にこだわった。この二人にとって、子供の観客を切り捨てないと描けないことが、どうしてもあったということである。

ミュータントが滅びつつある近未来。ローガン(ヒュー・ジャックマン)の治癒能力はほぼ失われ、チャールズ・エグゼビア(パトリック・スチュワート)ももはや能力の制御が困難となっていた。かつての仲間たちもすでになく、チャールズは最後の願いとして幼い少女ローラ(ダフネ・キーン)を守り切れとローガンに託す。

この少女に隠された謎、チャールズの思いとは何なのか。戦闘力のほとんどを失ったローガン、ウルヴァリンは彼らを守りきることができるのか。正真正銘、最後の一本である。

のっけからローガンの、今にも死にそうな衰弱ぶりにシリーズファンは驚くことになる。と同時に、首や四肢が飛びまくる残酷描写の数々にも、だ。だがそれ以上にショッキングなのは、その内容だろう。

何しろ本作ではあのチャールズが自らの人生を悔いているのである。ミュータントたちを差別と迫害から守り、生きる目的と誇りを与えるため学園を設立。あらゆる人々の幸福のために貢献してきた自らの人生を後悔している。ましてローガンなど、もとより生きる気力と希望を失っている。

これでは全シリーズ、およびヒロイズムの否定である。なるほど子供の観客には精神的にキツいだろう。少年たちはまだ、ヒーローの正義を信じているくらいでいい。これならR指定を大前提するのも当然と思わせる。

ここまで見てきたファンは、内臓を締め付けられる思いでこの最後のドラマを鑑賞することになるだろう。いったいなぜ二人はこんなに追い詰められているのか。ほかの仲間たちはどうなってしまったのか。

「自分たちと違うもの」を迫害する多数派。その構図を描き続けてきたこのシリーズは、現実の社会問題を反映している。来日したジェームズ・マンゴールドとヒュー・ジャックマンはそう名言した。

「LOGAN/ローガン」にもその色は濃い。とくに今回私が感じたのは、3人を追う側の人間たちが人工的に作り出したミュータント兵士のことを「特許品」と呼ぶシーンである。ここで観客のだれもが感じるであろう嫌悪感に注目すべきではないか。

遺伝子を組み替えた人間を特許品と呼ぶのも、遺伝子を組み替えた小麦をそう呼ぶのも、根本的には大差がない。そういう世界に現実の私たちも生きている。

シリーズ中、何度も登場しロケ地にまでなった通り、ローガンのキャラクターは日本と切り離せない。その日本では今、国内農業を守ってきた種子法を廃止し、その根幹を外資に明け渡す政策が行われようとしている。

一貫して米国に従属して国益を献上し続けてきたリーダーと、本作の黒幕と、いったい本質的に何が違うのか。日本的要素を擁するローガンのラスト作品で、おそらく偶然にもこうしたテーマが扱われるというのだから映画は面白い。

ヒュー・ジャックマンは現在48歳だが、お得意のサムライレシピを活用したか、年齢からは考えられないバルキーな肉体をリビルドし、このキャラクターに挑んできた。

彼が世に出たのはローガンを演じたのがきっかけであり、結局俳優人生のうち17年間を共に歩むことになった。その思い入れたるやハンパではあるまい。実際、今回は「孫に見せても恥ずかしくないものを」作ろうとしたと言っている。ちなみに彼にまだ孫はいない。

かように力の入った一作だが、残念なのはクライマックスのドーピングバトルにやや盛り上がりが欠ける点か。

この映画には痛快さというものが殆どなく、おそらく最後の最後で爆発的にカタルシスを感じさせるのが監督らの狙いではなかったかと思われる。だが実際にはそこまで中途半端にウルヴァリンが強く、この最終局面との差、ギャップがあまり無いため不発である。

この場面は、それこそ全シリーズの見せ場をまとめてもかなわないような、エモーショナルかつ悲壮的な"最後の戦い"を見せてほしかったところ。

それにしても、本作の大胆なコンセプト、迷いのなさはラストウルヴァリンとして十分なもの。R指定ながら全世界で大ヒットした「デッドプール」の成功がそのかじ取りに大きな力となったと思われる。

客層は17年間見続けてきた大人のファンが中心となるが、子供たちももう少し成長したら、ぜひこの完結編を味わってほしいと思う。



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