「光をくれた人」50点(100点満点中)
監督:デレク・シアンフランス 出演:マイケル・ファスベンダー アリシア・ヴィカンダー
他人の赤ん坊を育てるということ
罪と赦しをテーマに人間の葛藤を描くドラマ「光をくれた人」は、スウェーデンの国民的女優アリシア・ヴィカンダーとその恋人マイケル・ファスベンダーの大型カップルが夫婦役で主演ということで映画ファンに話題である。
1918年のオーストラリア。第一次世界大戦から帰ったトム(マイケル・ファスベンダー)は、人間付き合いをしないで済むことから孤島の灯台守の仕事に志願する。使用期間が終わりいったん町に戻ったトムは、土地の名士の娘イザベル(アリシア・ヴィキャンデル)と意気投合。結婚して二人きりで再び島に戻るのだった。
無人の孤島で二人きり。そんな結婚生活へ逆プロポーズで飛び込んだイザベルというヒロインの行動にまずは面食らう。この突飛な行動、性格が、のちに起きる事件における彼女の異様な主張に説得力を生みだす重要な伏線となっている。
その事件とは、二人きりで暮らす島に、手漕ぎボートが漂着するというもの。しかもそのボートには生後間もない赤ん坊と、その父親が乗っていた。父親はすでにこと切れており、赤ん坊は幸いにして命があった。
普通ならすぐに通報するところだが、この夫婦とくにイザベルは流産を繰り返したばかりであり、あろうことか自分たちで育てたいなどと言い出す。
この無謀な選択のために序盤の伏線があり、かつ1918年という時代設定がある。このころは戦争で多くの人が家族や友人を「喪失」したばかりであり、主人公夫婦のように戦場もしくは遺族としてPTSDとなった人たちがそこいら中にわんさといた。
こうしたもろもろのおかげで、赤ん坊を神からの授かりものといわんばかりに育てはじめる展開にも無理を感じないようになっている。
だがそれは、観客すら気づかないほどに大きな罪であったことが、徐々に明らかになる。この映画は、誰もが罪を犯してしまうということ、その罪を償わなくてはならないこと、罪によって傷ついた被害者が「赦す」ことの大切さを、非常に丁寧に描き、伝えることに成功している。
もっとも、いかにそうした仕掛けを施したとはいえいささかおとぎ話めいた、あるいはメロドラマ然としたムードに拒否反応を示す観客(特に男性)は少なくあるまい。だからむしろ、ある種の寓話と割り切って隠れたメッセージを探し受け止める、そうした楽しみ方を見出すほうがいいかもしれない。
二人の葛藤や愛情についてもよく伝わってくるものの、キャラクターたちが良くも悪くもしっかりしすぎていて、やや人間味が足りないように感じるのも本格的なドラマを求める向きには物足りないところ。結局のところ、イケメン&美女によるお涙ちょうだいのドラマを求めるライトな女性層向けの映画ということになるのだろう。
おやっと思ったのは、マイケル・ファスベンダーのヒゲをアリシア・ヴィカンダーが剃り落す場面。ここはなんと本物の剃刀で実際に剃っているのだという。通常、億単位のギャラを稼ぐスターに撮影中に刃物と扱わせることはありえない。まして顔面にそれを当てるとは。
このあたりに、現実でも恋人同士の(本作の共演を機に付き合った)二人の信頼感というものを感じるというか、そんな風に見るのもまた一興というものか。