「ワイルド・スピード ICE BREAK」65点(100点満点中)
監督:F・ゲイリー・グレイ 出演:ヴィン・ディーゼル ドウェイン・ジョンソン

ポール・ウォーカーは去ったが……

ポールウォーカーが撮影途中で事故死したため様々な工夫でなんとか完成させた前作「ワイルド・スピード SKY MISSION」。あれから2年、続編となる本作は、徹頭徹尾ポールへの愛情が感じられる好編となった。

遠く離れた地で暮らすドミニク(ヴィン・ディーゼル)のもとに、ある任務の協力要請が入る。ホブス(ドウェイン・ジョンソン)や仲間たちが集められ、無事任務遂行と思いきや、ファミリーは信じられないものを見ることになる。

主演クラスのキャストを途中で失ったトラウマを払拭するがごとく、ファミリーの絆を強調する第8作である。昨日の敵は今日の友な週刊少年ジャンプ展開も繰り返し、いまや自動車版アベンジャーズといった様相を呈してきた。

見終わって少し経つと、いったい彼らが何のために戦っていたのか思い出せないくらいに、ストーリーはどうでもいいタイプの映画。基本的には頭を使うより目を使う映画である。

それにしても第8弾。いまや出演者がどんどん出世して、このシリーズはたいへんな豪華キャストとなっている。ギャラの総額たるや、きっと恐ろしいことになっていると予想される。

ドウェイン・ジョンソンはターミネーターのように制圧銃の弾丸を跳ね返すし、ヘレン・ミレンとジェイソン・ステイサムは顔に似合わぬ漫才じみたやり取りを繰り広げる。とくにジェイソン・ステイサムは美味しいところを持っていく役どころで、彼のファンは今回特に必見である。

こうした面々と比べてしまうと、主役のヴィン・ディーゼルですらもはや小粒に見えるほどで、彼が何故か仲間を裏切る"衝撃の展開"にしても、別にそれならそれで結構ですよと思わず言いたくなるほどどうでもよかったりする。これでは意外性も何もありゃしない。

これほどの連中を相手にするのだから、悪役もシャーリーズ・セロンくらいでなくては釣り合いが取れない。ギャラをケチったと思われてしまう。彼女なら少々線が細いものの、少なくとも美熟女好きの目を喜ばせるには十分だ。

キャストと比例して、カーアクションもまたゴージャスである。ランボルギーニをはじめとする高級スーパーカーの共演など、このシリーズにおいてはもはや売り物にもならぬと見て、本作では戦車から潜水艦まで登場する。そのトンデモ具合をポップコーンをまき散らしながらゲラゲラ笑って楽しむ映画である。

とくに爆笑したのが、ある装置の携帯用起動ボタンを奪うため、所有者の乗る車を遠隔操縦の大量カーが追いかけてくる場面である。後ろから横から、はては真上から馬鹿げた数の自動車が追いかけてくるなんとシュールなことよ。

そんなに多数の車で追いかける意味がそもそもないし、そもそもそんなすごいハッキング技術があるなら直接ボタンをハックしろと誰もが思う瞬間である。

こうしたツッコミどころを最後まで盛大に残したまま、減速せず最後までハチャメチャアクションで楽しませてくれる。シリーズ初期作だけ見ていたファンが久しぶりにこれを見たら、一体途中に何があったと仰天すること確実である。

ここまで派手なクルマ映画はそうそう見られないし、ここまで行き着いたらさすがに次は路線を修正してくるしかないのではないか。いずれにしても、クルマ好きが笑って楽しめる爆笑エンタメ作。ポール・ウォーカーも天国でさぞ楽しんで見ていることであろう。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.