「夜に生きる」55点(100点満点中)
監督:ベン・アフレック 出演:ベン・アフレック エル・ファニング
ギャング映画の魅力
ギャングスターの栄枯盛衰というのは、今の日本人にとってどれだけ興味がある題材だろうか。「夜に生きる」は非常に良くできたギャング映画ではあるが、その点だけが気にかかる。
禁酒法時代のボストン。警視正の息子ジョー(ベン・アフレック)は、厳しく育てられた反動か、成長するとギャングになった。リーダーシップと強い上昇志向で頭角を現していったジョーは、敵対組織のボスの女(シエナ・ミラー)と恋することで窮地に陥るが、それは彼の波乱万丈な人生のほんの幕開けに過ぎないのだった。
監督のベン・アフレックは、ゴールデングローブ賞で監督賞をとった「アルゴ」など、役者だけでなくその演出家としての手腕も広く認められている。本作でも主演を同時にこなす余裕を見せ、じっさい演技も演出もけなす部分はまるでない。とても面白く見られるし、印象に残るセリフやシーンもたくさん出してくる。ギャング映画は古いジャンルだが、その魅力を十分に思い起こさせてくれる。
名台詞の例を一つあげると、ある大事な女性を前にチェスの話をする場面。人生をそれに例えて熱弁を振るう彼に彼女は冷ややかにいう。「でもゲームが終わればすべてのコマは同じ箱に戻るのよ」と。そして、それに対する彼の返答がじつにイカスのである。
こういう格好いい男の魅力を「夜に生きる」はたっぷりと堪能できる。平均寿命が伸び、治安も良くなった現代では、こういう生き方は中々できない。一歩間違えばあの世行き、運が良くても豚箱いき。それだけのリスクに見合う冒険の人生というものが、今や風前の灯というわけだ。リスクはほどほどにして、ダラダラ生きる。それが長寿時代のスタンダードな価値観である。
さて、主人公のジョーは肝っ玉の座ったギャングらしく、銀行強盗も殺人もいとわないが、不思議と凶悪犯と言った印象は受けない。
これは、彼が手がける裏ビジネスが密造酒の販売やカジノなど、今の時代ならなんのことはない合法的なビジネスだからであろう。これがもし麻薬ビジネスということであれば、この主人公に共感できる余地はほとんどなくなる。映画という奇妙な世界の中では、人殺しよりも麻薬のほうが罪が重いというわけだ。
かつてギャング映画といえば「ゴッドファーザー」シリーズや「アンタッチャブル」をはじめ名作も多く、日本でもそれなりに愛好者がいた。「夜に生きる」のような比較的質のいい最新作が広く親しまれれば、ジャンル復権なんてことがあるかもしれないがさてどうなるか。