「BLAME!」85点(100点満点中)
監督:瀬下寛之 声の出演:櫻井孝宏 花澤香菜
Netflixとポリゴン・ピクチュアズの挑戦
弐瓶勉の定評あるサイバーパンクコミックをアニメ化した「BLAME!」は、極めて新しい挑戦に満ちた映画作品である。
ネットワークが極限まで発達し、その中でシステムが暴走した近未来。星全体を覆わんばかりに増殖を続ける階層都市の片隅に、あるものを探す男がいた。その男キリイ(声:櫻井孝宏)は、旅路の途中で電基漁師の村人たちと出会う。人類の生存者を発見しだい攻撃する「セーフガード」の攻勢により居住エリアを狭められつつある彼らは、武器や食料にも事欠くありさまだった。重力子放射線射出装置という貫通力の高い武器を操り、とてつもない戦闘力を持つキリイは偶然村人の一部を助け、それをきっかけに彼らから救いを求められるが……。
「BLAME!」を一目見れば、誰もが面白いと言うだろう。
説明不足で難解な原作を換骨奪胎し、ワンエピソードを娯楽色たっぷりに再構成した大胆なストーリー。3DCGながらセルアニメ風のルックで統一された、日本アニメらしい主張あふれるキャラクターたち。日本アニメとして初のドルビーアトモス対応の派手なサウンドデザイン。よくできた劇伴音楽。萌え的人気がある悪役サナカンの凶悪なまでの強さ、アクション、そして声優等々……。褒めるところが多すぎて困るほどである。
こうした諸々は決して偶然ではなく、作り手が必死に工夫し、計算し、努力した結果である。それが見事にハマったまれに見る成功例ということだ。
たとえば本作が原作と大きく異なるストーリー、キャラクター設定、世界観を持つ理由は、原作ファンのようなコア層のリピート欲を高める目的があるためである。弐瓶コミックを読み解くレベルのファンは、新しい要素が加わった世界観の解釈に夢中になるだろう。
そして音楽や音響に過剰なまでにこだわったのは、映画館で見るモチベーションを高めるのが最大の目的だ。
それもこれも、Netflix投資により本作が作られ、その結果として劇場と全世界ネット配信が同日に行われる方針が決定されたから。
ふつう、ネットでほとんど無料で見られるとなれば、映画館側は嫌がるものだ。
だが、ネット配信がビジネス上の直接のライバルにならないとなれば話は別で、メリットばかりが浮かび上がってくる。そのため、つまりネットとリアル劇場の競合を避けるために、本作には音響やハイクオリティの映像など、映画館に有利な点をいくつも付与されている。
同時に、一度見ただけでは見残した気がするほど奥行きある魅力的な世界観や、ネットを中心に盛り上がってゆく共有体験性という、極めて高いリピート属性も付与、仕掛けされた。
それによって、近くに劇場があればとりあえず爆音上映などを楽しみ、リピート欲のほうは低コストなネット配信で、という購買行動を喚起することを狙っている。
同時に、本作のような低予算作品ではどうしても限界がある、公開劇場数の問題も解決できる。近くに映画館がなくともネットフリックスをみれば、公開と同時に皆と一緒の話題で盛り上がる共有体験を得ることができる。
こうしてみると、放っておいても300館以上確保できる東宝の大作以外の作品。すなわち根強いファンはいるけれど大規模なブッキングのできない小規模なアニメ作品にも、大ヒットの道が開ける画期的なアイデアのような気がしてくる。
「亜人」「シドニアの騎士」などこれまでのポリゴン・ピクチュアズ制作アニメのように、国内マーケットだけでは物足りない制作費しか集められない規模の作品でも、海外市場を最初から視野に入れればこれだけの金を集め、高いクオリティのものを作ることができる。
いろいろと日本初となる今回のチャレンジがもし成功したら、このビジネスモデルは今後の一つの潮流になるかもしれない。大いに期待を持って見守りたいと思っている。