「スプリット」65点(100点満点中)
監督:M・ナイト・シャマラン 出演:ジェームズ・マカヴォイ アニャ・テイラー=ジョイ

初期作のファンへ

スプリットは「シックス・センス」や「アンブレイカブル」といったM・ナイト・シャマラン監督の初期作に夢中になった人こそが一番楽しめる、原点回帰のスリラーである。

女子高生のケイシー(アニャ・テイラー=ジョイ)は同級生のクレア、マルシアとともにパーティーから車で帰る途中、男(ジェームズ・マカヴォイ)に拉致される。そして目覚めるとそこは密室だった。

監督初期作のファンこそが一番楽しめると書いたものの、それ以外の人も十分行ける。

映画が始まると、自分たちの車に見知らぬ男が、あまりにも自然に乗り込んできて女子高生3人が拉致される。白昼堂々、ショッピングセンターの駐車場で、あまりにも簡単にさらわれる。この演出がいい。日常と地獄の境目が全くないのだから、これは怖い。

主人公ケイシーは、いけてる残りの二人のJKとはちょっと違ったヒエラルキーにいる、いわば不思議ちゃん系である。とはいえ3人ともピチピチの女子高生、それも無駄にナイスバディであるから密室に閉じ込められたあと何が起こるかは火を見るよりも明らかだ。

目がイっちゃってる犯人の男に品定めされ、ついに一人の子が隣の部屋に連れて行かれてゆく。そのシーンもまた怖い。そんな彼女にケイシーはなぜか冷静にあるアドバイスを一言おくる。その後も、妙に落ち着いた態度でオサレ系な二人に的確な指示を与えたりする。

バカ3人組がひどい目に合う話だと、観客はなかなか感情移入できず結果的に恐怖度も下がるもの。だがこうした利口なキャラが存在すると、大騒ぎするだけの二人も含めてなんとか助かってほしいとより強く思うようになり、彼女らがひどい目に合うたびに観客の心も痛めつけられることになる。さすが、スリラーの演出をよくわかっている監督である。

と同時に、すべての真相を知ったあとにこうした数々を見ると、今度は別の意味で恐ろしい思いをすることになる。つまり「スプリット」は、確実に二度見ることを想定した作りになっている。一度目と二度目では、全く違った物語、シーンに見える仕組みになっている。ようするに、凝ったミステリ映画ということである。

よくわからない法則で女の子達が薄着になっていくことで中だるみを防ぎ、犯人が24もの多重人格というのもいい変化となっている。多重人格ネタの定番で、3人は多少なりとも味方になってくれそうな人格とコミュニケーションを取ることによって脱出を図る。普通に面白い。

残念なのは終盤にいよいよ秘められた人格が現れたその後の、最大のショックシーンがかなり失笑を買う絵面になっていること。ここは意外性と同時に恐怖を与えたかった場面なのだが、純粋に映像が馬鹿馬鹿しいので大失敗している。

ここがうまくいっていれば、最後に犯人がケイシーを見て言うセリフの重みが伝わり、さらなる傑作となっていただろう。

価値観の一発逆転と皮肉すぎる落ち、というものを狙ったことは私にはよくわかるのだが、完全に不発である。その結果、B級感を感じさせるスリラーにとどまってしまった。

とはいえ、それこそがいつものシャマラン節と言われればそのとおりなので、結局これはこれでいいのだろうと、そう結論付けるしかないのもまた事実なのである。



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