「スノーデン」60点(100点満点中)
監督:オリヴァー・ストーン 出演:ジョセフ・ゴードン=レヴィット シェイリーン・ウッドリー

共謀罪成立前に見ておきたい社会派ドラマ

インターネットが普及して、ニュースはそれで見れば十分という人が増えている。だがよく警告されているようにネットだけで情報収集する人は、得てして自分の見たい、読みたい情報ばかりを集めるようになり、やがて偏った人間になる。私は名匠オリヴァー・ストーンがスノーデン事件を描いたドラマ「スノーデン」をみて、思わずそんなことを考えた。

9.11同時多発テロを見たエドワード(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)は愛国心の強い若者だった。彼はそれを機に軍へ志願するが、訓練中に負傷し除隊する。だが次の職場のCIAでは持ち前のIT知識で一目置かれるようになり、徐々に重要な情報にアクセスできるようになる。

つい半年ほど前にドキュメンタリー映画「シチズンフォー スノーデンの暴露」が公開されており、それを見た人には多くの部分がネタかぶりになる作品である。あちらが傑作だっただけに、あの後こちらを見るモチベーションは大きく下がるだろうし、それも個人的には理解できる。

ただ、劇映画ということで、本作にはスノーデンがロシアに呼び寄せた恋人との出会い、ロマンスのあたりがより詳しく描かれている。また、CIA、NSA時代の勤務の実態というものも詳細に見せている。このへんはオリヴァー・ストーン版ならではの見どころといえる。

社会派の監督らしく、スノーデンの告発が社会にどう影響を与えたか、それも良い影響について描いているのも特徴的。たとえばオバマ政権における盗聴規制の実態などがそれにあたる。

後半には政府批判的な色が濃くなり、メッセージがより直接的になってゆく。中々面白いのでその詳細は映画を見てほしいのだが、ようするにスノーデンは、自分が愛国者であったことを強調したいのではないか。売国奴などと散々ののしられているのだから、それも当然というべきか。

おそらく彼の考えとしては、情報というものは基本的に表に出し、議論をすべきであるということだろう。要するに、彼は圧倒的なまでに、自国民の知性と良識を信じているわけだ。

果たして彼は愛国者か否か。政府に寄る盗聴は許されるのか否か。スノーデンが残していった問題提起は、自分が偏った人間になっているかどうかの判定にも役立つ。

ところでいま、日本人がこの映画を見る意義としては、審議が佳境に入った共謀罪ことテロ等準備罪の是非について考える、という側面もある。お上のやることを疑わなくなった現代日本の若者たちが好む理屈「犯罪者じゃない限り関係ない、どんどんやればいい」について、たまには自ら反論してみるのも知力を高める役に立つ。この映画は、そのきっかけ程度には十分なるだろう。



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