「バーニング・オーシャン」55点(100点満点中)
監督:ピーター・バーグ 出演:マーク・ウォールバーグ カート・ラッセル

未曾有の大事故をスペクタクルに

2010年メキシコ湾原油流出事故は、環境汚染の意味でも、損賠賠償の金額の意味でも、史上最大級のものであった。ところが場所があまりに日本からは遠かったがために、日本企業も一部関わっていたにもかかわらず、いまだに日本での印象は薄いものがある。

メキシコ湾沖合に浮かぶ石油掘削施設ディープウォーター・ホライゾン。電気技師のマイク(マーク・ウォールバーグ)は、社会と隔絶した孤島というべきここに、家族を残して赴任する。ところが施設はずさんな管理が行われており、マイクは上司のジミーを通して大本のBP社に抗議する。だが彼らは利益追求のため、あろうことか安全管理手順の省略まで指示。やがて史上最大の原油流出事故につながる大爆発が起こってしまう。

「バーニング・オーシャン」は、まさにそのメキシコ湾原油流出事故を映画化したものである。この事件は2015年にも「コンテンダー」として映画になっているが、本作は現場で起きた再現ドラマの意味合いが強く、爆発や流出を必死で食い止めようとした男たちの感動のドラマにもなっている。

前半はじっくりと事故の背景が描かれる。本作はこの事故を人災とみる立場なので、BP社がいかに無茶な運営をしていたか、現場に不穏な空気が漂っていたかを伝えようとする。

どこの国の企業でも上に立つものが利潤ばかり気にするようになると現場にしわ寄せがやってくる。この日本にも、巨大津波の危険性が詳細なデータとともにあげられていたのに「対策は必要なし」と国会で強弁して、結果として原発メルトダウン事故を引き起こした政治家がいる。その人物はいま、涼しい顔をして総理大臣をやっている。

それにしてもアメリカ映画がとんでもないなと思うのは、こうした未曾有の被害を出した事故をわずか数年で娯楽要素の高いパニック映画にしてしまうことである。

本作も、ピーター・バーグ監督お気に入りのマーク・ウォールバーグがヒロイックな活躍を見せるエンターテイメントとしての色濃い一本。爆発シーンなどは冗談かと思うような規模で、破滅に向かう絶望感を感じさせる。この事故シーンを見るだけでも、そこそこの視覚的満足感を得られるだろう。

もし事故現場に近い地域を中心としたアメリカ人がこれだけの再現映像を見たら、さぞ思うところがあるのではないか。さすがに大幅に脚色を加えてはあるだろうが、そのぶん涙なしには見られまい。

だが残念ながら日本人の多くには、これが現実の出来事として実感できるだけの情報がない。「DEEPWATER HORIZON」という原題のまま公開できず、このようなチープな邦題になってしまったことからもそれがうかがえる。



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