「パージ:大統領令」65点(100点満点中)
監督:ジェームズ・デモナコ 出演:フランク・グリロ エリザベス・ミッチェル

トランプもヒラリーも一網打尽

一年に一晩、12時間だけどんな犯罪も合法になる。そんな「パージ法」が施行された米国を舞台にしたスリラーシリーズの第3弾。

このシリーズは一見突飛な設定でありながら、現実のアメリカが抱える問題を浮き彫りにする社会派な作風で、私としても高く評価している。とくにこの「パージ:大統領令」は、シリーズ中もっとも色濃くそうしたテーマ性を感じさせる面白い一本である。

犯罪抑制のためとうたわれたパージ法の欺瞞がばれ始めていた。中でもかつて家族がこの法律による殺戮の犠牲となったローン上院議員(エリザベス・ミッチェル)はパージ廃止の急先鋒。次期大統領候補の彼女のもとには志を同じくする人々が結集しつつあった。だがそれを快く思わぬ政権側は、議員もパージの対象に含まれるようパージ法を改正し、2日後のパージの夜にローン暗殺を謀る計画を立てていた。

現実でも大変な話題となっていた大統領選挙が題材ということで、3作目にして本作は本国ではシリーズ最大のヒットとなった。わかりやすく社会派スリラーとしての面白さをアピールした結果といえるだろう。

じっさい、本作のあからさまとも言える社会批判のメッセージは日本人にもわかりやすい。

たとえば「パージで儲かるのはライフル協会と保険会社だけだ」なんてセリフも出てくるが、はっきりと現実の社会問題とのリンクを押し出しているのがわかるだろう。パージ当夜に保険料を一方的に値上げして庶民を苦しめる様子など、圧倒的上位の立場のものが平気で足元を見る商売が当たり前になった現実のアメリカの闇そのものだ。

このほかにも、メキシコ移民のキャラクターが活躍したり、もとギャングに救われる展開などもじつに政治映画的な要素といえる。つまり本作の立場としては、トランプ大統領のような強硬派も、ヒラリーのような格差拡大グローバリストにも批判的、ということだ。どちらにも問題があるのは当然で、その意味ではなかなかまっとうな考え方のもとに作られていると感じられる。

そして、このシリーズは単独でみてもそこそこ楽しめるが、この3作目には最高傑作「パージ:アナーキー」(2作目)で熱い活躍をみせたあのキャラクターが再登場して盛り上がるので、できればDVDなどで予習してから挑んでほしいと思う。

一見よいことのように見える政策に、実は別のいかがわしい目的があった。こうした事は昔から行われてきた。きれいごとの本音が、実はごく一部の集団の利権であるとか、そういった事だ。

言うまでもなく、現代日本でもそれは同じだ。たとえば対テロ対策など主目的ですらなかった「テロ等準備罪」。だぶついていたのに獣医学部を新設、その美名のもとにお友達に利益供与した「加計学園疑惑」。そういった問題がすぐに頭に浮かぶ。政府のタテマエをコロリと信じて物事の本質を見抜けない人が、ネットを中心にどんどん増えている。プロパガンダとスピンに満ちた報道の歴史を知らない、学ばないとこういうことになる。

「パージ:大統領令」は、こうしたことを自然と考えさせられるようなひねりあるラストになっていて、その点もまた優れたものだと感じさせる。



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