「ゴースト・イン・ザ・シェル」40点(100点満点中)
監督:ルパート・サンダーズ 出演:スカーレット・ヨハンソン ビートたけし
白いブラックウィドウ
「攻殻機動隊」は、日本よりも海外で話題になりそうなタイトルなのだが、その実写版「ゴースト・イン・ザ・シェル」は、肝心のアメリカ市場でよもやの大苦戦である。日本ではなおさら一般受けしにくいコンテンツなだけに、先行きが不安なスタートといえる。
脳以外、人工的な義体で生きている少佐(スカーレット・ヨハンソン)。義体が珍しいものではないこの時代でも彼女の能力は群を抜いており、彼女が所属する公安9課でも不可欠な戦力となっていた。9課を率いる荒巻大輔(ビートたけし)も彼女を高く評価し、今日もサイバーテロ集団と対峙するのだった。
士郎正宗による原作漫画とも、押井守らによるアニメ版とも距離を取った内容のハリウッド実写版。もはや主人公の名前すら違うわけだが、そのあたりは物語が進むと徐々に目指す方向性がわかってくる。要はこのハリウッド版は、"少佐"の自分探しの物語、ということである。
映画版の世界観は、いかにも80年代らしい爛漫さを感じさせた漫画版とも、哲学的ハードボイルドな押井守版とも微妙に異なるもの。現実味も生活感もなく、どことなく不安感を与える退廃的な近未来。若いクリエイターが好みそうなダークなルックの映像だ。
そこにスカーレット・ヨハンソンの少佐が光学迷彩スーツで大アクションを繰り広げるコンセプトだが、これがまた原作ファンの不評を買いそうな見た目である。
スカーレットさんはこのためにわざわざ太ったのか、あるいは衣装が膨張色の白だからそう見えるだけなのか、やたらとムッチムチ。原作のエロエロな雰囲気を醸し出しているといえばそう見えなくもないが、スタイリッシュなヒロインアクションが全盛の今、鈍重な見た目はどうにも気になる。
気になるといえば彼女の黒髪厚化粧姿、日本人の自分にはどうもタレントの久本雅美に似ている感じを受ける。外人にはああいうのが受けるのかもしれないが、共感の邪魔になってしかたがない。
まあ、それは映画の出来には関係ないのでいいとして、だ。白い全身スーツは意図的に引きの画面では全裸に見えるように撮られていて、やたらとエッチである。ルパート・サンダーズ監督は、よほど原作漫画のエロシーンが好きなのだろう。
もう一人の重要人物荒巻も、演じるビートたけしは見た目は狂気を感じさせて面白いのだが、しゃべるとどうしてもお笑い芸人の印象が強く、日本人観客の目にはかなり厳しいものがある。
このあたりからも、本作が外国向けであることを痛感させられる。というか、そもそも荒巻を北野映画的な狂気をはらむキャラにする必要があったのかという気もするが……。
いずれにせよ、この二人のコレジャナイ感に比べれば、少佐の相棒バトーのちんけなヤンキームードなどは大した問題ではないように思われる。
それにしても、原作が何度も映像化されているとの事実以上に、この実写版の世界観は既視感に満ちている。ディテールへのこだわりが感じにくく、あちこちに矛盾を感じるのもよろしくない。ストーリー面も、ネタバレなので詳しくはかけないが、肝心の真相に説得力がまるでないのは痛い。
結論として本作は、原作やアニメのファンが、ハリウッドレベルの実写映像をとりあえず確認に行く用途向け、といえる。
それ以外の一般の方は、むっちりスカヨハの全裸風アクションだけにお金を払う結果となってもかまわないという人にならばすすめられる。