「パッセンジャー」85点(100点満点中)
監督:モルテン・ティルドゥム 出演:ジェニファー・ローレンス クリス・プラット

宇宙の果てで二人ぼっち

「パッセンジャー」は抜群に面白いシチュエーション設定とよくできたセット、説得力をもって描かれた人間ドラマの3点が揃った見事なSFである。

5000人を乗せた超長距離航行宇宙船のエコノミークラスに乗っていた乗客ジム(クリス・プラット)は、ふと目が覚める。信じがたいことに彼のコールドスリープの機械が故障し、予定より90年も早く覚醒してしまったのだ。クルーも誰一人起きておらず船は全自動で運航している。このままでは宇宙の果てでのたれ死ぬ。そんなジムは、同じように目覚めたファーストクラスの乗客オーロラ(ジェニファー・ローレンス)と協力して事態を打開しようと試みるが……。

この映画はネタバレ厳禁事項があるので紹介が難しいのだが、一言で言えば最も重要なのは、この二人の恋愛劇の側面といえるだろう。

決して普通ではない出会い方をした男女の関係がどう盛り上がり、破綻するのか。あるいはかけがえのない関係にまで昇華するのか。そのメカニズムと経過を見事に描いている。宇宙船内部の探検や問題解決のための試行錯誤がおもしろすぎるので一見目立たないが、これこそが最大の見どころだと私は思う。

ここがよくできているから、この意外なラストにも人々は説得力を感じ、大いに納得するはずだ。さすがはブラックリスト脚本、お話で勝負できる映画といえる。

登場人物が極めて少ない密室劇を、とてつもないスケールの舞台でみせる点もまた面白い。ヒロインのジェニファー・ローレンスがキャリア最高レベルの魅力的な役作りで仕上げてきた点も褒めておきたいところだ。

気の強い有能な女が恋をする、そして可愛い女に変わる。その説得力とキュートさ。白い水着が似合うセクシーな女でもあり、男がその人生をかけてもモノにしたくなる説得力を有している。

自分ならどうこの困難に立ち向かうか。それが本作の基本的な楽しみ方だが、同じようにこんなに完璧な女をどう落とすか、その点をたっぷり妄想できるようになっている。

まさに男のための妄想映画。女性にとっては妄想される側ではあるのだが、同じようにジェニファー・ローレンスに感情移入して楽しむこともできるだろう。ぜひカップルで楽しんでいただきたい。



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