「モアナと伝説の海」70点(100点満点中)
監督:ロン・クレメンツ 声の出演:アウリイ・クラヴァーリョ ドウェイン・ジョンソン
優等生なアニメではあるが
「モアナと伝説の海」は、ディズニーアニメらしく時代の空気を反映した脚本に、少しだけ新しいチャレンジを加えた高品質なアニメーション映画だ。過去の成功例の積み重ねによる安定感も高く、非の打ち所がない優等生映画となっている。
海が大好きな少女モアナは、族長の父親により外洋に出ることを固く禁じられていた。だが女神テ・フィティの「心」が盗まれた事により世界の均衡は崩れ、彼女はそれを食い止めるため伝説の英雄マウイを求めて旅立つ決意を固めるのだった。
本作には「アナと雪の女王」など過去のディズニーアニメ成功作の長所がふんだんに取り入れられており、誰が見ても十分共感できるようになっている。彼らは長年の蓄積を基にきわめてロジカルな映画作りをしており、毎年成功の方程式を更新しているようなものなので、もはや駄作が生まれる余地はほとんどない。
かつて黒澤明は「どんな名監督でも脚本がダメなら名画は撮れない」と言ったが、いまのディズニーアニメ製作チームなら、どんなダメ脚本でもそれなりに見せてしまうのではないか。
技術的には海が舞台とあって海水の表現にこだわったという。地域による水の透明度の違いを測るため、彼らは大掛かりな測定装置を開発し、サンディエゴはじめ世界数カ所でそれを使った。たかがアニメ映画のためにそこまでやる。とんでもないことである。
物語はポリネシアの神話をもとにしたもので、異国情緒も感じられて心地よい。それによると、彼らは3000年前に突然航海をやめてしまったという。まだニュージーランドもハワイも発見される前のことである。その謎めいた話が、外洋航海を禁じられている主人公モアナの島の設定に反映されている。
と同時にこれは、国単位で引きこもる自国優先主義、保護主義のダブルミーニングとなっているわけで、トランプ時代の今となってはみごとなタイミングというほかはない。
モアナの父親は島ごと引きこもってしまっているが、グローバルな世界に憧れるモアナは果敢に外に出ようとする。まさに、我が島ファーストな父を、グローバリストのヒロインが説得する構図である。
こういう映画を、大統領選挙の翌週に公開するのだからアメリカという国は面白い。
さて、現実のヒロイン(ヒラリー)は負けてしまったが、はたしてモアナは世界の危機を救うことができるのか。深読み好きな大人もアクション好きな子供も楽しめる、隙のない一本である。