「ドント・ブリーズ」90点(100点満点中)
監督:フェデ・アルバレス 出演:ジェーン・レヴィ ディラン・ミネット
強盗に共感してしまう映画
「ドント・ブリーズ」は今年最後にやってきて、年間ベスト級の大傑作だが、宣伝にネタバレが含まれているので完全に味わうには当記事だけを参考に出かけたほうが良い。
構造的な不況の町デトロイト。半ばゴーストタウンと化していることを逆手にとって、アレックスら悪友たち3人は強盗を企図する。ティーンエイジャーのロッキー(ジェーン・レヴィ)も恋人マニーと街を出るカネを得るため参加する。ターゲットは一人暮らしの盲目の老人。どう見ても楽勝と思われた仕事だったが、3人は思わぬ反撃にあう。
空き家だらけの町。人目はない。家には盲目の老人だけ。万が一この住人に見つかっても顔を見られる心配はない。強引に突破してしまえばこちらのもの。
誰がどう見ても余裕とおもいきや、この老人はとんでもない相手であった。なんと元軍人で中東で実戦経験ありの歴戦の勇者。老人のくせにやたらとマッチョだし、視力を失ったとはいえ動物的な危機感地能力を持っている。なにより組み合ったらその白兵戦能力は素人のかなうところではない。それでも元気な若者3人でかかればなんとか有利と思いきや、明かりを失ったとたん、彼らのわずかなアドバンテージは消し飛んでしまう。
いやはや、みるからに目の前にありそうなアイデアを、よくぞ拾い上げブラッシュアップして見事なサスペンスに仕立て上げたものだ。
目が見えない、老人、一人。パッと見だけで人は判断できない、そのこととを私たち大人は大なり小なり誰でも知っているが、ここまで極端な「聞いてないよ!」的展開が続くと、恐怖を通り越して痛快極まりない。
また、上記あらすじから多くの人が想像するであろうもろもろを、はるかに上回る工夫が凝らされているのも素晴らしい。相当に考え抜いた脚本であろうことは、見ればすぐにわかる。フェデ・アルバレス監督はかのサム・ライミの信頼厚い人物だが、それもよくわかる。
大胆な伏線の数々、二転三転する驚愕の展開、この手の映画に人々が期待する楽しさをすべて兼ね備えている。個人的にもっともうならされたのは、地下室である人物が撃たれた直後に男が叫ぶ言葉、である。見終わった後にこの段落を思い出せば、きっとあなたも同感と言ってくれるだろう。
さて、これ以上語りたいところだがあえてやめておこう。作品を楽しむために絶対にばらしてはいけない最重要な3文字を、私はここまで一度も書いていない。アマプロ問わずブログや紹介サイトも公式資料を引き写すだけだから、きっとネット中にその3文字は踊りまくっていることだろう。私以外の普通の映画紹介者たちは、よもや公式資料を疑うなんてことはしないのだから当然だ。
その点、超映画批評を真っ先に読んでいるあなたは常に情報強者、勝ち組である。90点をたたき出したこの傑作エンタメサスペンスを、100パーセント楽しむことができるのだから。
さあ、冬休みはなにより先に「ドント・ブリーズ」から。敬愛なる読者のみなさんが、どうか途中でネタバレに出会うことなきよう。