「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」75点(100点満点中)
監督:ギャレス・エドワーズ 出演:フェリシティ・ジョーンズ ディエゴ・ルナ 

ヒーローは無名

昨年から始まったディズニー版スター・ウォーズは、隔年で本編3部作が公開される合間に、スピンオフ3本の公開を挟む形でとりあえず6年間続く予定になっている。「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」はそのスピンオフ第一作となる。

皇帝とダースベイダーら帝国軍は最終兵器デススターの完成を目の前にしていた。反乱軍は、その危険性を証明するため、過激すぎて袂を分かったかつての仲間ソウ・ゲレラ(フォレスト・ウィテカー)に連絡を取る必要があった。そこで彼らは、ソウのもとでかつて暮らしていたジン(フェリシティ・ジョーンズ)にコンタクトを取るのだった。

さて、このジンという女性がヒロインなわけだが、彼女はデススターの開発の中心人物で科学者ゲイレン・アーソ(マッツ・ミケルセン)の娘でもある。ほかの人生があったはずなのに、宇宙のゆくえを揺るがす運命に巻き込まれた彼女の悲劇的な物語が本作の見どころである。

記念すべき第一作であるエピソード4の10分前までの物語、とのふれこみどおり、EP4のいくつかの謎につながるストーリー。EP4の最初でレイア姫がR2D2に託したデススターの設計図を命がけで奪ってきた、名もなき戦士たちの物語、である。

名もなき戦士たちの、というところがポイントで、本作には一人を除いてフォースを操る、いわゆる超能力者のようなチートキャラは出てこない。その一人が誰かはまあ、みなさんわかってはいるだろうがあえて伏せておこう。ものすごい見せ場が最後にあるのでお楽しみに。

ひとり、香港の誇るアクションスター、ドニー・イェンが演じる座頭市のようなめっぽう強い盲目キャラが出てくるが、彼も決してジェダイではない。「フォースがともにあらんことを」と念仏のように唱える姿が印象的だが、ジェダイにあこがれていながらジェダイになれないという、哀愁漂う名キャラクターとなっている。

前半は各キャラクターの紹介というか、共感させるためのドラマがじっくりと描かれており、少々テンポはゆっくり目。だがその分、思い切り熱い見せ場が後半に用意される。

デススターの設計図を奪い、反乱軍に届けるためにヒロインと行動を共にする仲間たちは、決して有名なヒーローではない。それどころか脱走者だとか浪人といったはぐれものばかりで、たいした見返りもないのに決死の戦いに身を投じる。行動する仲間たちの人数からみても、黒澤明の「七人の侍」を意識しているのは明らかだ。

監督のギャレス・エドワーズも、EP4同様、そうした偉大なる先人による物語を、出所をわからぬように取り込んで作ったと言っている。侍、武士道といった潔い価値観を感じさせる本作は、おそらく日本人にはすべてのSWシリーズの中で、生理的に最も腑に落ちる一本ではないだろうか。

監督は人生をかけたというほど本作に思い入れているSWマニア。本人も語っている通り、そういう熱意は決してプラスに働くとは限らないが、本作品はなかなかうまくいったほうではないだろうか。こだわったのはメカ類で、EP4につながるようにデザインされている。Xウイングのようなわかりやすい「ヒーロー機」ではなく、たんなる薄汚れた輸送機がメインとなるあたりも本作が「無名のサムライ」の物語であることを物語っている。

K-2SOという戦略ロボットも、帝国側から奪い取って再プログラミングしたいわばポンコツリサイクル品だが、これまでのあらゆるロボ系キャラを上回るほどの人間味と熱い奮闘を見せる。

EP4以降が選ばれしものの物語だとすると、実はそれを支えたのが実はこんな気持ちのいい無名の男たち、女たちだったという裏話の感動はひとしおである。EP4でルークがデススターと戦えたのは、彼らの命がけの働きがあったからであった。

途中でも書いたが、最後にフォースを武器に無双するあるキャラクターの追撃を、いったい誰が食い止め、だれがつないだが。そこが本作最大のテーマであり、ポイントであり、見せ場である。この怒涛のクライマックスは、EP4以降を知るものなら涙なしには見られない。

ギャレス・エドワーズ監督らしい、SWを好きなら好きなほど感動できる、素晴らしい作品の誕生である。



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