「ボクの妻と結婚してください。」45点(100点満点中)
監督:三宅喜重 出演:織田裕二 吉田羊
無理な設定をうまくカバーしてくれないと
思わずタイトル買いしてしまいそうな目を引く題名だが、肝心のその理由を納得させることができなかったため、最後まで乗り切れずに終わってしまった。
バラエティー番組の放送作家・三村修治(織田裕二)は、末期のすい臓がんで余命半年と宣告されしまう。持ち前のテレビマン精神で、人生の最期をこそ明るく演出したいと考えた修治は、残された家族のため自分の代わりによき夫、よき父となってくれる男を探し始める。
不幸でさえエンタテイメントに変える、変えたい。そういうテレビマンならではの理由付けはギリギリ納得できなくもない。だがそのために浮気の狂言までするのはやりすぎというものだ。
あれ一発で完全に観客はドン引き。もともとありえない設定な上に、奥さん(およびそこに感情移入している女性客)の気持ちを全く考えていない身勝手さが露見し、それ以降の話についていく気力を完全に失う。
それでもなんとか途中退場せず見られたのは織田裕二という役者のもつ共感力によるもの。だからシーン単位では泣かせるいい部分もあるのだが、全体的に見ればちょっと生理的に受け付けない、といった結論にならざるを得ない。
三宅喜重監督は「阪急電車 片道15分の奇跡」など人間を描く力のある演出家だが、今回ばかりはいくつも至らぬ点が見受けられた。何より説得力がなかったのは、妻と子供だけ残していけない、との切実な要素が何ひとつ見当たらない点である。
たとえば息子は早熟タイプで放っておいても中学受験に成功するタイプだし、奥さんの吉田羊はすぐにでもアイドル並にイケメンの年下男を捕まえそうだ。
住んでいるところもオシャレで何不自由なさそうだし、夫の一人や二人あの世に行ってもこの一家はまるで困りそうにない。というか、これほど後に残して心配のない母子もいないだろうというレベルである。
これで妻の再婚相手を生前に決めておく、なんて素っ頓狂な夫の行動に正当性を持たせるなんてのは、どだい無理な話であろう。
ここはやはり、ベタでも経済的に夫がいなければ成り立たない設定のほうがすんなりいくし、この不況時代には共感もできるというもの。子供がいる設定も、いっそ取りやめたほうが良かろう。
その上で、笑えるシーンを徹底的に連投して物語への共感を高め、息つく暇もなくクライマックスに持っていく。なによりスピードが感が求められる物語であり、速攻でなければあのエンディングは決まらないのだと気づかないとダメだ。
まとめると、笑いによって高度な共感力を作れること、語り口にスピード感を出せること。それがこの映画を成功させるために必要な監督のスキルということである。
「ボク妻」は韓国でリメイクの予定があるというが、むしろ韓国映画のほうが得意な題材のように思える。彼らは超映画批評も読んでいるから、こうした問題点についても理解し、さすがにもう少しリファインして作ってくるだろうう。今はそれを楽しみに待つとする。