「ブリジット・ジョーンズの日記 ダメな私の最後のモテ期」80点(100点満点中)
監督:シャロン・マグアイア 出演:レニー・ゼルウィガー コリン・ファース

勝ち組の女性客を気持ちよくさせる計算高いロマコメ

邦題も、野外フェスで「運命の人」と出会う冒頭のコメディシーンも、日本の某作品の二番煎じのような気がするが、それはともかくブリジット・ジョーンズ、なんと12年ぶりの続編の登場である。

40を超えてもいまだ独身彼氏ナシのブリジット(レニー・ゼルウィガー)。仕事はそこそこ順調だがこれではまずいと、悪友仲間と出かけた音楽フェスで、素敵な男性ジャック(パトリック・デンプシー)と思わずヤってしまう。しかも元カレのマーク(コリン・ファース)ともムードに流されしてしまい……これが、ブリジット史上最大のトラブルの引き金となってしまう。

「どっちの子供かわかんない!」10代の女の子ならまだしも、40過ぎの独身おばさんが遭遇するとギャグにしかならないシチュエーションである。こんなものはだれが見ても、どっちの子供だろうが良かったじゃねーかでおしまい。深刻さがないのが救いで、よって本作の笑える度は非常に高い。コメディとしては優秀である。

そんなことより、12年ぶりのブリジットが、同じ女優が演じているとは誰にもわからないことのほうが問題であろう。さすがにレニー・ゼルウィガーも、今回ばかりはいつものデブ役作りはあきらめた模様、何しろそんな程度のことでは焼け石に水なくらい別人化しているのだからどうしようもない。本人はずっとまた演じたかったといっているが、使う側を躊躇させるくらい顔を変えてどうするのか。

とはいえ、キャラクターとしてのブリジットじたいは、一作目から何も変わらない。相変わらず軽薄な暮らしを続け、ダメっぷりもそのままだ。痛い目に合っても反省せず、いやしたとしても次作までにはまた元に戻っている。

この、誰が見てもダメ人間なのに何一つ変わらない、成長しないのがこのシリーズ最大の特徴であり、だからこそブリジットは全世界の女性たちの強力な共感を得られたのである。つまり女の子とは、多くの男性たちと違って変わりたくない、ホンネでは自分を変えたくないということ。彼女たちは変わることではなく、自分を全肯定してくれる存在を求めているのである。

だからブリジットは何一つ変わらず、ダメ人間のままで億万長者のいい男と出会うし、ヤれるし、子供もできるし、いい思いもできる。

通常映画というものは、主人公なりカップルがダメな部分を改善して、そのご褒美としてハッピーエンディングがあるものだが、その王道を外したところがこのシリーズの現代的で画期的で、かつ女の子受けした最大の理由である。男性向けの映画とはそこが根本的に異なる。今後、女性向け映画を作る人は、大いに参考にしたらよい。

と同時に、12年もたっていまだにブリジットの物語を映画館に見に行くような女性は、ほとんど世間でいう勝ち組、リア充側の人間であることに注意する必要がある。自分は結婚して、子供もいる。だから負け組代表ブリジットの奮闘を、爆笑しながら楽しむことができるのである。これが本当にブリジットのような境遇の人が見たら、あまりにもシャレにならない。

11年12年たち、そうした勝ち組女性が見る映画になっているので、本作の価値観は極めて保守的である。

ブリジットの母親のリベラル転向だとか同性愛カップルだとか一見そうではなさそうに見えるが違う。この映画では、その同性愛カップルでさえ、「結局女の幸せは結婚と出産」という、旧来の価値観に無意識に屈服している。

日本でも、よく保守派は渋谷区なんかが進めている同性愛婚を批判するが、全くもってこっけいな話である。結婚制度は保守派がマンセーしてきたシステムなのに、せっかくその同じ価値観に属したいと望んでいる同性カップルを認めないというのは、完全に矛盾している。彼ら彼女らの活動を支持するのが真の保守派である。

さて、この映画を見るとそうした滑稽な現実をまるで再現しているかのようで興味深い。つまり、リベラルもコンサバも終着点は同じになるんだという、見る人が見ればかなりキツイ主張の映画ということである。(政治用語的にはこの二つは対義語ではないかもしれないが、話を分かりやすくするためあえて使う)

そんなわけで、出産マンセーな保守的価値観によって自己肯定されたいオンナノコ、もちろん現在はリア充。前回までとは微妙に変えてきた、それがブリジット・ジョーンズパート3のメイン客層である。

そこを理解していると、映画の最後でなぜブリジットがアレを失うのか、失わなくてはならないのか、その理由がよくわかるだろう。あれはメイン客層をより満足させるためのいわば必然、なのである。本当に憎らしいほど、よく計算された映画である。これを作った人たちは頭がいい、まるで私だ。

その逆に、望んでいたのに出産を逃した女性たちには、これは完全に鬼門である。鑑賞リストからは即座に外すことを強くすすめておく。



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