「闇金ウシジマくん ザ・ファイナル」70点(100点満点中)
監督:山口雅俊 出演:山田孝之 綾野剛
ウシジマの世界に果敢に戦いを挑む男の物語
2010年から続く闇金ウシジマくん実写ドラマも、いよいよこの映画版で完結となる。そして、当初からこのシリーズを担当してきた生みの親たる山口雅俊監督は、最後の最後に強烈なパンチを食らわせてきた。
「カウカウファイナンス」の丑嶋馨(山田孝之)のもとに、かつての同級生竹本優希(永山絢斗)が訪ねてくる。他人を助けるために金を借りたいという、カウカウの社員たちには甘ちゃんにしか見えない竹本のふるまいをみて、しかしウシジマは複雑な気持ちになる。実はウシジマと竹本には、中学生時代にある因縁があるのだった。
今回の題材となる闇金と過払い金請求側のバトルネタは、社会的には大事だがタイムリーとまでは言えず、むしろ少々古さを感じざるをえない。それが時代の先を読むウシジマくんの映画としては弱いところでる。
原作を元にする限りこの時間差は埋めることができず、だから私はそろそろ映画オリジナルの、いまの社会問題を鋭くえぐるストーリーを見たいと思っているし、今後の復活にも期待を持って改めてここに記しておく。
さて、それはともかくこの完結編は、実はかなり挑発的な作品となっている。
まず大前提として、このシリーズにおけるウシジマ社長とは、ゴルゴ13のデューク東郷と同じで、作中では神のごとき存在である。それは全能という意味ではなく、作品のアイデンテティ、価値観そのもの、という意味でだ。
だからウシジマの言葉は常に圧倒的説得力に満ちているし、たとえ法律を踏み越えていても、人道的に違っていたとしても、ぐうの音も出ないパワフルさに満ちている。
ウシジマは「神」であるから絶対にブレることがない。常に自らを信じる、その自信に満ちた姿はまさにヒーローであり、魅力に満ちている。
だがあろうことかこの完結編において、山口雅俊監督は、その神であるウシジマに対して果敢に挑戦を挑む。具体的には登場人物の竹本をもって、ウシジマの価値観(すなわち作品そのもの)へと戦いを挑むのである。
しかもその形勢不利なる戦いにおいて、なんと竹本はウシジマをむしろ圧倒するのである。むろん、今回だってウシジマは見事なまでの名台詞を連発する。それこそ全観客を一言で黙らせるほどの迫力、説得力には痛快さすら感じるほどである。
ところが、である。竹本はそんなウシジマを前に一歩も引くことなく、堂々と反撃する。彼の言葉ときたら、ウシジマのそれをすら色あせさせるほどで、はるかに心に刺さるものばかり。そしてそんな竹本の前に、ついにあのウシジマがあんな姿を見せるのである。
これには驚いたし、また痛快さを感じざるをえなかった。私はこの映画シリーズではじめて、作り手の意思というものを今回感じた。そして、こうした挑発的なエピソードをあえて最後の最後にやった山口監督の、原作に対する深い愛情というものをまた感じたのである。
ここに映画人としての矜持を感じたし、だからこそまだまだ作ってみては、と思わざるをえないわけである。メインキャスト、いやウシジマ役をむしろ山田孝之から変更するのもリニューアルとしてはアリかもしれない。
今の時代ほどウシジマの物語がフィットするときはなく、十分に続ける価値があると私は思う。