「われらが背きし者」75点(100点満点中)
監督:スザンナ・ホワイト 出演:ユアン・マクレガー ステラン・スカルスガルド
中高年男性でも楽しめる娯楽作
元MI6の作家ジョン・ル・カレ原作のスパイサスペンス「われらが背きし者」は、彼の小説の最近の映画化の例に漏れず、非常に見応えのある大人向けの傑作エンタテイメントに仕上がっている。
大学教授ペリー(ユアン・マクレガー)は妻とモロッコに休暇にやってきた。そこで知り合った妙にきっぷのいい男ディマ(ステラン・スカルスガルド)に後日、夫婦で誘われたペリーは、そのあまりにゴージャスなパーティーに圧倒される。そしてその場で彼はディマに、彼がロシアンマフィアの金庫番であること、組織に命を狙われていること、家族を救うため、秘密が入ったメモリスティックをMI6に届けてほしいことを頼まれる。
どこかの国の人気コミックと違って、ジョン・ル・カレの映画化作品に外れはない。どこかの国の人気コミックを実写化する人たちは、大いに参考にしたらよい。
それはともかく、こうした小説や映画で扱われることからわかる通り、ロシアという国は最近ますます存在感を強めている。
無視できない国、しかし完全に信頼できるかといえばそうではない。こういう微妙なポジションは、エンタメにとってはぴったりな舞台といえる。本作でもロシアからの貴重な告発者を信じきれない、そんな登場人物たちの様子に描かれている。
この映画の場合、やがてその背景にロシアンマフィアと西側政府の癒着があることが明らかになるが、こうしたスケールの大きな陰謀論的展開はル・カレの独壇場。強いリアリティと説得力があるから映画自体に緊張感がもたらされるし、大人でも最後まで興ざめしないで見ることができる。
国際的な謀略の戦いの中にど素人の一般人が巻き込まれる話は、なんといっても導入部こそが大事であるが、その点この映画はよくできている。
だいたい、180万円のワインをふるまわれながら「俺たち一家の命を救ってくれ」なんて言われたら、ユアン・マクレガーならずともなんとかしてやりたいと思うのが人というものだ。人間、気前がよく嘘をつかない人間には憧れの念とともに強い魅力を感じるもの。
こうしたマフィアの男との偶然の出会いも旅先ならさもありなんといった感じで、我々一市民としても、我が事のように感情移入して楽しむことができるだろう。
家族思いのマフィアを演じたステラン・スカルスガルドは最近ではマイティ・ソー関連作品のエリック・セルヴィグ教授役で知られるが、どこかチャーミングでほどよく共感できる点が、本作のエンタメ度をうまい具合に高めている。
ワンマンだが決断が早くブレがない。予定を明日に伸ばすのではなく今日やる、そんなパワフルさには、男性ならばだれもが思わず惹かれてしまうことだろう。
そんなわけで「われらが背きし者」は、他のスパイ映画の例に漏れず、おじさん世代が夢中になれる良質なサスペンスアクションになっている。主人公の奥さん役ナオミ・ハリスが出てきたときには、思わずお前こそMI6のスパイじゃねーのと思ったりもするが、もちろんそんな裏設定はない。
そんな007ファンも含めて、だれもがストレートに楽しめる映画だとお勧めしたい。