「GANTZ:O」65点(100点満点中)
監督:川村泰 声の出演:小野大輔 M・A・O
原作読者には十分な満足度
ジョジョ第四部が実写化される事で話題だが、ああいう長大な原作を実写化する場合、常に物語の最初から映画にするわけにもいかない。上映時間には限りがあるから、それでは最近の読者が喜ぶ「最新部分」に到着するまで何本も必要になるし、それを待ってくれるほど観客の我慢も邦画の予算もありゃしない。結果、なるべくコンパクトで一見さんでも引き込める部分をパイロット的に映画化することになる。ジョジョで言えばそれが第4部であり、ガンツの場合はこの大阪編ということになる。
高校生の加藤勝(声:小野大輔)は、地下鉄駅で人助けをしようとして事故死する。ところが死んだはずの彼はなぜかマンションの一室に転送され、事態を把握するまもなくアイドルのレイカ(声:早見沙織)らと大阪の街へと再び転送される。
大阪編はコンパクトだし人気もあるしで、原作ファンにはとっつきやすい3D-CGアニメにしたのだろうが、こうしてみると、大阪編の面白さは決して単独ではなく、やはりそこまでの熱いドラマの積み上げがあったからこそ、ということが改めてわかる。
自分たち以外にもガンツの殺人ゲームに参加している連中がいたこと、それどころかはるかに彼らのほうがベテランだったこと。そんな彼らでさえ圧倒されるとてつもない敵の出現……。マンネリになりつつあった原作の流れに新風を吹き込み壮大な展開へと誘った大阪編の功績は大きい。
この映画版も正義漢・加藤たちの奮闘ぶりは熱く、胸躍るものがある。ただ、加藤の視点から世界観の一応の説明が行われるとはいえ、一見さんにはちょっとついていけない部分が多いかもしれない。その意味では、やはり漫画版のハイテンションによる脳内補正付き込みでのエンタテイメント。原作読者があの大阪編を、大画面で滑らかなアクションとして再体験する使い方がメインとなる映画と言えるだろう。
そうした見方からすると、冒頭の渋谷の街のいいようのない迫力と現実感などは漫画版以上の迫力であり、一気に引き込まれるものがある。原作もある意味CG漫画だから、この映画版のリアルな背景とキャラクターとの親和性は高い。
相変わらず影の薄いヒロインレイカよりサイズでは劣るものの、シングルマザー・杏の胸の揺れ具合など、未読者にはなんでそんなところにあんなに力を入れているんだと思うほどの見せ場である。柔らかい質感まで手に取るようにわかるあの出来栄えを見れば、揺れる乳首の残像表現を発明したといわれる原作者・奥浩哉も納得するに違いない。
ストーリーは少々改変している部分もあるが、とくにうまくないのはあのオチである。あれをやるなら加藤が部屋に現れた時から、もっとしっかり伏線を張っておかなくてはならない。それがより感動を深める常套手段である。トリックは大胆に、が原則である。
一方、敵にXガンを向けながらもなかなか発射しないなど、観客のイライラをつのらせるしか効果のない演出など、そんなところまで原作に忠実にしなくてもいいだろと突っ込みたくなること請け合いである。ただし、3連射&チャージの演出はなかなか絵的に説得力があった。
それにしても、全体的に人物の動きの滑らかさやメカ類の格好よさなどは見事なもので、人物の表情の不自然さを差っ引いてもこのCGアニメ版は見るべきところが多い。
長期連載ならではのグダ要素をばっさりカットして、評判の悪いオチもいっそ直して、より面白くまとめた映画版も見てみたい。そんな風に思わせるだけのポテンシャルがこのCG版にはあった。
ぜひ残りのGANTZ本編をリブート実写版大作として企画してほしいし、新海誠作品を社内で最初に配給した東宝映像事業部(その数年後、東宝は満を持して「君の名は。」を大規模に公開させ大ヒットした)が本作を手掛けていることから見ても、これがヒットすれば次作以降でその可能性は大いにあり得る。