「砂上の法廷」85点(100点満点中)
監督:コートニー・ハント 出演:キアヌ・リーヴス レニー・ゼルウィガー

キアヌに騙される

2月末にアカデミー賞授賞式があるため、3月は社会派ものとか賞レースに絡んだ地味な映画が多い。気軽なエンタメが見たい映画ファンは4月のGWまで待たなきゃならない事が多いのだが、『砂上の法廷』はこの時期には珍しい娯楽色の強い法廷サスペンスである。

恩師だった弁護士殺害事件で起訴された彼の息子の弁護を引き受けた弁護士ラムゼイ(キアヌ・リーヴス)は、証人たちのウソを見抜くが、なぜか被告人は固く口を閉ざしたままだった。

事件じたいは単純な殺人事件。傲慢な性格で亭主関白だった大物弁護士が自宅で刺殺され、傍らには血まみれの息子と凶器の包丁。しかも息子は「自分がやった」と言っている。ほとんど現行犯だし、争う余地などないように見える。

ところがこの事件、登場人物同士の相関関係がなかなか複雑。

たとえば弁護士ラムゼイは被害者の一番弟子。つまりラムゼイは、"恩師殺害犯の弁護"をする立場となっている。

本来なら、ラムゼイは息子の無実を証明して恩師殺害事件の真実に迫りたいところだが、その息子が自白しているからやっかいだ。しかもラムゼイに対してすら黙秘を続けている。そんな状況で、いったいどう弁護をすればいいのか。

いかな凄腕といえど難仕事だが、しかしキアヌ弁護士は、証人たちが語るわずかな矛盾をとらえ、抜群の弁舌力で陪審員の感情をコントロールし、逆境を跳ね返す。

このジャンルを得意とするアメリカ映画らしく、裁判シーンは迫力満点。たとえば何気なく雇ったかのように見えるアシスタント。経験も浅く頼りない女の子なのになぜ……と思うが、彼女は黒人かつ美人であり、有色人種の陪審人の同情と共感を集める局面で"利用できる"とラムゼイは計算していたのだった。このえげつなさこそ、アメリカ裁判というものだ。

正直者のイケメンヒーロー的な役柄が多かったキアヌだからこその意外性だし、詳しくは言えないがオチにもそのイメージは寄与している。結末はそう簡単には読み切れない。



連絡は前田有一(webmaster@maeda-y.com 映画批評家)まで
©2003 by Yuichi Maeda. All rights reserved.