「ルーム」85点(100点満点中)
監督:レニー・アブラハムソン 出演:ブリー・ラーソン ジェイコブ・トレンブレイ

拉致監禁された部屋で子供を産み育てた少女の物語

20代半ばとみられる美しい母親(ブリー・ラーソン)と、長い髪がきれいな5歳の子供(ジェイコブ・トレンブレイ)。二人は目覚めると朝食を作り、一緒に運動を始める。とても仲睦まじい、仲良し母子のほほえましい様子だ。思わず頬が緩むが、やがて観客は大きな違和感を感じ始める。不気味で、おそろしい違和感を……。

映画「ルーム」のオープニングは秀逸だ。なにしろ、はたからみてもわかるほど深い絆で結ばれる母子を見て恐怖感を感じ始めるというのは何よりインパクトある体験といえる。

たとえば、こんなに大きな子供なのに授乳をしている。美しく長い髪の子供は、しかし男の子だ。6畳かそこらのわずかなスペースに、浴槽やキッチン、ベッドが置かれているが、二人は外に出る気配はない。

その違和感の正体はすぐにわかる。二人は何者かに監禁されている。それだけではない。この監禁生活は6年間に及ぶ、すなわち17歳で誘拐された少女がこの部屋で出産、子育てをしている事実がやがて明らかになる。

この映画の驚くべき点は、誰もが想像する「脱出スリラー」ではまったくないことだ。むろんそのくだりはスリル満点に用意されているが、本作の真の価値はそれ以降の展開にある

そこで描かれるのは、人の幸福に必要なものとは何なのかとの根源的な問いかけ。誰もが異様さと閉塞感しか感じない「部屋」に、そこで生まれ育った子供が意外な愛着を示すとき、私たちは激しく動揺する。そして、固定化されていた価値観を打ち砕かれる感動的なラストシーンの直後、今まで見えていなかったものを見ることになる。

絶賛された母親役ブリー・ラーソンは実際に長期間自室に引きこもり、荒廃してゆく精神を体験して役作りした。そんな作り手の意欲と気迫が伝わる作品といえるだろう。



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