「殿、利息でござる!」90点(100点満点中)
監督:中村義洋 出演:阿部サダヲ 瑛太

中身はマジメ

江戸中期の仙台藩に、重税に苦しむ人々のため無私の心でつくした名もなき男たちがいた──。「殿、利息でござる!」は、そんな知られざる感動の実話をもとにした歴史映画。興収15億円のヒットを飛ばした「武士の家計簿」の原作者・磯田道史による評伝を、「予告犯」の中村義洋監督が実写化した時代劇だ。

舞台となる宿場町「吉岡宿」は慢性的な不景気で夜逃げが後を絶たず、じわじわと戸数を減らしていた。とりわけ「伝馬」と呼ばれるお上からの課役が住民に重くのしかかり、宿場の衰退に拍車をかけていた。

造り酒屋の穀田屋十三郎と知恵者の菅原屋篤平治は打開策として、大金を藩に貸し付けその利息で伝馬の負担を賄う前代未聞のアイデアを考える。さっそく彼らは基金に必要な1000両を集めるため、出資者を探し始めるが……。

随所に笑いをちりばめてあるが、主演の阿部サダヲの演技は抑制が効いているし、原作は歴史家によるノンフィクションだから考証もバッチリ。信じられない感動の展開も実話ならではの重さで迫ってくる。おちゃらけたタイトルで損をしている気がするが、今年の邦画ベスト3に入ろうかという傑作だ。

それにしても重税と苦役にまみれたこの時代の庶民が、逆に藩にカネを貸し付けるなんてあまりに突拍子もない話だ。ただ「基金を運用して宿場を運営する」との考え方は資本主義的な発想で先進的だし、合理的なやり方ともいえる。

とはいえ問題は、現代の貨幣価値に換算して3億円という莫大な金を、ビンボー宿場の町人たちがどう工面するのかという点。主人公らがこの金策に奔走する流れが面白い。

まず少しでも儲かっている者がいれば仲間に引き込み、この「貧しい者を救うファンド」への出資を募る。だがこの基金は、リターンのすべてを百姓や奉公人の課役に充てるため、出資者には1円の戻りもない。つまりカネだけ出して、永遠にそれは戻ってこないというムチャな話だ。

そんな出資話に乗る商人がいるわけないと思うが、なんと次々と仲間は増える。みな町の名士であると同時に、貧しい百姓たちとも運命共同体なのだという当事者意識をしっかり持っていたのだ。その態度は今どきのリーダーや金持ちよりよほど立派で、どこかの元都知事に見せてやりたいほどだ。

かつてこの国には、ここまで「無私」になれる人間がいた。その事実に涙が止まらなくなると同時に、あまりにかけ離れた現代の惨状を思うと強く打ちのめされる。

現代の高度な資本主義社会においては、自分さえ儲かればいいとの強者の論理が破滅的な格差を生み出している。だがその先駆けというべき素朴な基金を発明した昔の日本人たちは、はるか江戸時代にひとつの経済的奇跡を起こしていた。これを見た現代人は、確実に大きなショックを受けるだろう。



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