「レヴェナント:蘇えりし者」65点(100点満点中)
監督:アレハンドロ・G・イニャリトゥ 出演:レオナルド・ディカプリオ トム・ハーディ
スター俳優を使うデメリット
「レヴェナント:蘇えりし者」は、レオナルド・ディカプリオが5度目のノミネートで悲願の主演男優賞を受賞した歴史ドラマである。
米西部の原野でヒュー・グラス(レオナルド・ディカプリオ)はクマに襲われ重傷を負う。しかも仲間のジョン・フィッツジェラルド(トム・ハーディ)に置き去りにされる。復讐を誓った彼は怒りの力で奇跡的に息を吹き返し、壮絶な追跡戦を開始する。
上記あらすじあたりまでは実話だが、アレハンドロ・G・イニャリトゥ監督はそこに最愛の息子を殺害されるという濃厚な味付けを加え、より主人公の旅路を過酷かつ印象深いものとした。
復讐への執念を強く描くほどに、息子への愛情の強さも描くことになる定番の展開だが、それだけでは飽きたらず、映画史上まれにみる本番撮影のテクニックを使って、この映画に圧倒的なリアリティを与えようとした。
それはたとえば、生き延びるために生肉や内蔵を食らうシーンなど、実際に役者にやらせてみる、といったやり方である。
大自然もロケ撮影の賜物で、凍てつく寒さのなかではい回ったり、川に落ちたりといった場面も本物。クマさんとの喧嘩だけはさすがに違うだろうと思うわけだが、あのバカげた迫力もその他の本物演出あってこそだ。
エマニュエル・ルベツキによる4Kの高性能な高性能なカメラによる撮影は、素人が見てもその違いがわかるであろう美しいもの。とにかく見た目の面では文句なしの映画である。
問題は、それほどストイックに作った画面にディカプリオが出てくると、妙にぬるく感じさせるという点である。
本作は復讐劇だが、この結末に説得力と衝撃を持たせ、かつ現実世界とのリンクを感じさせるにはもっと過酷さを観客に実感させねばなるまい。むろん、その点で平均以上なのは間違いないが、表現方法として突出していたかと言えば、そうでもない。だから結末にさほどの感動を感じない。これは残念なところである。
結局、有名かつキャリアの長い役者を使う弊害で、もはやこの程度の演技では意外性もないし感心もしないところまで来てしまっているのである。
上映時間も長く、ストーリーは遅々として進まない。演技面で驚きがなければとても持たない。ごくたまに映画を見る人ならいいが、映画フリークになればなるほど、本作を純粋に楽しむことは難しくなろう。
なお、いかに強靭な意思があったとしても主人公の回復ぶりがあまりに早く、この手のリアリティドラマとしては、著しく説得力を書いている点も指摘しておきたい。私はこの映画をたまたま医療関係者とみていたが、彼女も同じことをいっていたのでそこは改善の余地があったといえるのではなかろうか。