「ニュースの真相」70点(100点満点中)
監督:ジェームズ・ヴァンダービルト 出演:ケイト・ブランシェット ロバート・レッドフォード
ジャーナリズムに興味ある人は必見
米大統領選が近づくと政治的な映画が増えてくるのが常だが「ニュースの真相」もその一つといえるだろう。何しろこの映画はジョージ・W・ブッシュのスキャンダルをすっぱ抜いたテレビジャーナリストの実話を映画化したものだ。
2004年、CBSの報道番組『60ミニッツII』に、再選を目指すジョージ・W・ブッシュ大統領の軍歴詐称疑惑の情報が寄せられた。プロデューサーのメアリー(ケイト・ブランシェット)と彼女の盟友であり父親的存在でもある看板キャスターのダン・ラザー(ロバート・レッドフォード)は協力して調査にあたる。やがて決定的な新証拠を発見するが、メアリーは完全な裏取りができぬまま、それでも他局に先駆け報じることを決定する。
この映画ではいくつかの重要な問題が提起されている。
まず、誤報を報じてしまったジャーナリストはどこまで責任を負えばいいのかという問題。日本でも先ごろ朝日新聞が従軍慰安婦関連での誤報を認めたが、その責任を十分にとったのかという点ではいまだ批判がやまない。比べてこの映画で同じような窮地に立たされたジャーナリストたちはどう責任を取ったのか。国益を害するレベルの大誤報をしでかした大新聞のその後とあわせて比較してみると、より考えさせられるはずである。
次に、インターネット時代において、メディアに求められる情報の確度が際限なく上がっている問題。この映画で描かれる誤報問題を発見、検証したのはインターネットのブロガーである。朝日新聞の慰安婦報道、あるいは東京五輪のロゴ盗作問題などについても、ネットにおける無数の検証者が主力となったことは疑いようもあるまい。
そして、政治的リーダーの経歴詐称問題について。日本でも安倍首相、麻生副首相の両トップが、公式プロフィールの留学部分をかなり"盛って"いたことが報道されている。安倍首相はともかく、五輪にまで出た麻生大臣に経歴コンプレックスなど無いと思うのだが、そういう話ではない、彼ら独特の経歴詐称の動機というものがあるのかもしれない。ただいえることは、そんな政府をもつ国民としては大変情けない気持ちになるというだけである。
CBSのスタッフたちは、ブッシュ元大統領の州空軍パイロット時代の経歴を疑い、報じた。インタビュー打診の仕方、調査の仕方など、ディテール豊かにそれは描かれ、まがりなりにも報道番組に出ている私が見てもいくつか参考になる描写もあった。
このようなリアリティは、原作がメアリー自身の手記だからである。当事者なのだから細部まで本物なのは当たり前、ということだ。
ただし、それは同時にこの事件の見方が公平ではなく、一方からの偏った視点という意味でもある。その点は重々承知の上で鑑賞する必要がある。
じっさいメアリーたちは証拠集め、つまり裏取りの段階で大きなエラーを犯したが、今でも彼女たちはブッシュのこの疑惑自体は真実だったと思っているようだ。ブッシュの大統領時代のエピソードにはそれを裏付けるような無能っぷりを示すものが少なくないからさもありなん、といった気もするが。
そんなわけで「ニュースの真相」のメアリーとダン・ラザーは、本当に格好いい、ジャーナリストの鑑のようなヒーローとして描かれている。こんな仕事をする人たちがいるなんて、アメリカのマスコミってすごい! うらやましい! なんて思ってしまうような映画になっている。
むろんそれは、自分たちの手記が元なのだから当たり前ではあるが、ジェームズ・ヴァンダービルト監督の、デビュー作とは思えないしっかりとした演出のおかげでもある。
ちなみに主演のケイト・ブランシェットは、先日アンジェリーナ・ジョリーの後をついで国連の親善大使になった。ロバート・レッドフォードは昔から有名な民主党支持者のリベラルで、政治映画にかかわることも非常に多い。
大統領選の年にふさわしい、よくできた政治映画。この記事を読んで興味を持った人なら、きっと楽しめる一本になると思う。