「ファインディング・ドリー」80点(100点満点中)
監督:アンドリュー・スタントン 声の出演:エレン・デジェネレス
前作ほどの完成度は望めないがなかなかの佳作
堂々たる傑作にして完結していた前作をもつ続編だけに、どうせこの程度だろうとの低めの先入観をもって見る人が多いと想像する。だが「ファインディング・ドリー」はそれをいい意味で裏切り、予想外の感動を与えてくるのだから大したものだ。
グレート・バリア・リーフで、友人たちと何不自由なく暮らす忘れんぼうのドリー。ある時彼女は幸せそうな親子であるマーリンとニモをみて、自分にも家族がいたはずだと考える。そのときかすかに戻った幼いころの記憶。それだけを頼りに、ドリーはマーリンの制止も聞かず大海原へと飛び出してゆく。家族をさがす無謀なドリーの旅は、はたしてどんな結末を迎えるのだろうか。
前作「ファインディング・ニモ」を私は、二人の障害者を特別扱いしていたマーリンが、結局彼らに救われる話だとあちこちで解説してきた。狭い見方で他人を判断することの愚かさと、弱者への理解をエンタメの中で見せる優れた映画作品だと評価してきた。
こうした解釈を裏付けるかのごとく、続編ではこのテーマをはっきり明言し、さらに一歩進めた主張を描いている。
主人公ドリーの記憶障害は重症で、幼少期の両親の反応などはまさにそうした試練に直面した人々の困惑を見せているわけだが、そんなドリーの、やむを得ない直感行動を本作は全面的に肯定する。
もちろん現実ならばこんな風にうまくいくものではないが、現代人は考えすぎて頭でっかちになりがちだから、彼女の活躍にはそれなりの説得力があるともいえる。誰もが無理だろうと思う大冒険を、あぶなっかしくもドリーは乗り越えて行く。おのずと応援したい気持ちになってくる。
アクションパートについては基本子供向きで、前作ほどの完成度はない。チートキャラが味方についているのでピンチにおいても緊張感はないし、現実感も感じない。
ただそのぶん、彼らと離れたときのスリルは倍増する。伏線もすべて使いきったと観客が思った時、予想外の展開が待ち受ける。海底におけるあのシーンは泣ける度100というほかない。
それでも本作の非現実的すぎるアクションは、もう少し押さえてほしかったと思わざるをえない。一線を超えてやりすぎるのはアメリカのアニメの悪い癖である。
とくに終盤のカーアクションは要らないし、エンドロール後のおまけの場面も、いくらアニメとはいえちょっと無理がありすぎる。
子供たちにとっては、舞台が水族館のようなところだから親しみやすく、映画のあとには実際に行きたくもなるだろう。そうやって子供たちの興味と世界を広げてくれる点では、大変よい映画と言える。
また親たちにとっては、この映画が語るメッセージに子供たち以上に心打たれることになるだろう。
だいたい親というものは、必死に我が子を育てたとしても、たくさんの教えを与えたとしても、結局一つの教訓程度しか子供たちには伝わらなかったりする。それはたとえドリーのような覚えられない子でなかったとしても、似たようなものだろう。
だが、そのたったひとつが子供の人生を救う、よすがとなりうるのだとこの映画はいっている。
とても暖かい、そしてパワフルなメッセージというほかない。ドリーやニモのような障害を持つ子はもちろん、あらゆる子を持つ親にとってこの映画は救いであり、心強い応援歌として届くだろう。