「64-ロクヨン-前編」「64-ロクヨン-後編」65点(100点満点中)
監督:瀬々敬久 出演:佐藤浩市 綾野剛
重厚な日本映画だが
「64-ロクヨン」は横山秀夫のミステリ小説の映画化で、前後編あわせて4時間の、大作感ある重厚なドラマである。
平成14年12月。ロクヨンと呼ばれる昭和64年に起きた誘拐事件の時効があと1年と迫っていた。そんな折、管内で新たな誘拐事件が発生する。そしてその事件は、まるでロクヨンをなぞるかのような手口であった。警察広報室の三上(佐藤浩市)は記者クラブと報道協定を結ぶ必要に迫られるが、情報公開が進まぬ警察側とマスコミとの溝は深まるばかりだった。
5月7日に公開された前編に続き、6月11日から後編が公開となる。どちらかだけ見る人というのもいないだろうしもう両方公開しているので、ここはまとめて語った方が読者にも親切と判断する。よって本記事では、前編後編両方見た上での評価となる。
さて、その立場からまとめると、映画「64-ロクヨン」はいかにもドラマの密度が不安定である。原作はともかく、映画で描かれる内容だけならば、140から長くとも160分もあれば十分すぎるほどの中身。わざわざ2本に分ける必然性はほとんど感じない。
特に主軸となる誘拐事件の発生は後半を待たねばならず、そのせいで前半は必要以上にゆったりとした時間が流れる。必然的に後半のペースは対照的に駆け足となっている。
前半のようなどっしりとしたテンポで行くには、犯人との駆け引きや背景の説明など、もりだくさんの後半2時間は窮屈にすぎる。逆にこの後半ペースで描くなら、前半の内容はせいぜい40分もあれば十分だ。
このように感じる理由は、前半の主題であるマスコミとの対立ドラマのキモとなる記者クラブ幹事会社の秋川役の瑛太が、どこか薄っぺらい雑魚感を感じさせるからである。叩き上げのこわもて記者たちを仕切るだけの賢さが、いかにも感じられない。
秋川というのはあまり派手な出来事が起こらない前半を支える大事な役どころであり、そこが弱い前編がトロいのはそれが理由だ。
一方、主演の佐藤浩市についてだが、彼はもともとオーバーアクト気味な持ち味があり、本作のような抑えた演技を見せあうドラマの中ではやや浮いてしまう。それが主演らしさといえばそうなのかもしれないが。
まとめると、前編のんびり、後編の前半はちょうどよく、終盤あたふた。一番面白い終盤部分にもっと時間と力を割いてほしかったところ。ただ映画全体をみると、真面目な作りでよく頑張っていると思うし、それなりに見ごたえもある。
今の時期、同系統の日本映画に協力なライバルはいないので、大作かつ華のあるドラマをみたい人にとっては、やや消極的ながらこれが第一選択となるだろう。