「10 クローバーフィールド・レーン」90点(100点満点中)
監督:ダン・トラクテンバーグ 出演:ジョン・グッドマン メアリー・エリザベス・ウィンステッド
ネタバレ前に行くしかない
この映画についてだけは公開前にレビューしたかったのだが結果的に叶わず。案の定、ポスターその他の件に言及する人が後を絶たず、申し訳ない限りである。
交通事故を起こしたミシェル(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)が目覚めると、そこは狭い部屋で、彼女はなぜか拘束されている。混乱するミシェルの前に現れたのは大男のハワード(ジョン・グッドマン)。彼は意外にも、事故から助けたのは自分だと主張する。やがてここは地下シェルターで、外の世界で大変なことが起きたために連れてきたなどと、にわかには信じがたい話を始めるのだった。
最初に書くべきことは、この映画はネタバレ厳禁といわれるタイプの映画であるということだ。
しかし、そうはいってもこれまでの同種の映画とは少々異なる。世間ではポスターや予告編がネタバレでひどいなどと言われているようだが、ポスターの絵柄まではなんとか許せる範囲といえるだろう。そもそもこういうタイトルがついている時点で、ジャンルについてある程度の先入観を持つことが前提の作品である。
そのうえで、実際はまるっきり期待と違う監禁もののドラマが延々と続くことで、すべての観客の予想を裏切り続ける。なぜこんなものがクローバーフィールドなのか、続編なのかスピンオフなのか、それともタイトルやポスターの絵柄じたいがミスリードなのか……と翻弄されつつ楽しむ映画ということだ。
しかし現実は残念なことに、出来のいいオリジナル予告編以外、特報と日本版予告は絶対に見てはいけないつくりになってしまっているし、それを大騒ぎすることじたいがまた重大なネタバレにもなるという、どうにもならない状況になってしまった。
つくづく日本の映画紹介シーンには、本当にユーザーのことだけを考えてやる人、できる人が必要だと痛感する。成果の出ない合コンに明け暮れ2か月も離れている場合ではないと深く反省した次第である。
それはともかく映画の内容だが、エンタメ版「ルーム」とでもいうべき抜群の面白さで、全く先読みが困難である。しかしタイトルには「クローバーフィールド」とついているわけで、どうしたってあのお騒がせ映画「クローバーフィールド/HAKAISHA」(08年)を思い出す。製作者もJ・J・エイブラムスだから、無関係のはずがない。こういう、事前には決してわけがわからない映画はティーン層の話題になりやすいだろうと想像する。
特筆すべきは登場人物3人が共同生活を送る地下シェルターの内装美術。ある程度の広さをキープし、快適さを維持しようとしたが、センスが悪くてどう考えても成功していない。その異様さ、不気味さがうまく出ている。作成者のハワードをどうにも信用しきれないような演出効果をあげている。
最初はエロエロな展開になるかと思いきや、男二人が意外なほど紳士的な態度を保ってくれていることも、監禁だとしたら動機がさっぱりわからない。それがまた、彼らの語る突拍子もないストーリーを観客としても捨てきれない原因となっている。
それでも色々とヒントは散らばっており、それを観客が拾い集めて推理を固めようとすることも可能だが、残念ながら毎回それが出来上がるギリギリ直前に次の大事件が起きてしまう。まさに退屈知らず、心地よく翻弄される面白さに満ちている。
そして終盤の二転三転とヒロインの最後の選択は、なかなか深みを感じさせる。どんなスリラーでも、結局一番恐ろしいのは……なんてテーマはよくあるが、この映画はそこにひねりをくわえている。
面白さだけなら今の時期はこれが一番。なるべく情報を仕入れずに、さっさと映画館にいくことをすすめる。ファミリー映画ではないので、子連れではなくカップルや友人と。きっといいデートムービーになるだろう。